Johannes Mann/Getty Images

新型コロナウイルス感染症の危機下で、製品開発チームはプロセスを急加速すべくプレッシャーをかけられている。だが、過度のプレッシャーはチームのクリエイティビティを阻害しかねない。一方で、標準的なイノベーションプロセスには、事前調整に時間をかけることが欠かせないとされる。はたして、迅速なイノベーションは実現可能なのか。そこで筆者らが提言するのが、「最小限で適応性のある調整」である。従来の手法に固執せず、むしろ不確実性を味方につけながら、イノベーションに素早く到達するのに必要な戦略を提示する。


 新型コロナウイルス感染症による危機は、多くの製品開発チームを苦境に追い込んでいる。彼らはプロセスを急加速するよう求められているが、研究によれば、時間に対する過度のプレッシャーはクリエイティブな仕事を阻害することが明らかになっている。

 イノベーションのためのベストプラクティスは事前調整と共通理解を重視しているが、これらはすべて時間がかかり、急いでできるものではない。組織にとって品質を犠牲にすることなく、クリエイティブチームの仕事のスピードを上げることは可能なのだろうか。

 筆者らの最近の研究は、それを実現するためのシンプルながら常識とは反する戦略を提案している。迅速なイノベーションに取り組むチームは、時間のかかる事前のプロセスは避け、「最小限で適応性のある調整(minimal and adaptive coordination)」という考え方を取り入れるべきだ。

 迅速なイノベーションにはどのような戦略が有効なのかを深く理解するため、筆者らは2つのハッカソンにおいて13の医療技術プロジェクトの進展を追跡した。ハッカソンに参加したアドホックなチームは、遠隔操作の呼吸器や発作の警報機器などの支援技術を、72時間以内にゼロから開発することを求められた。

 こうした難題にもかかわらず、13チームのうち6チームが、通常であれば数週間から数カ月かかる製品開発プロセスを加速させることに成功し、わずか72時間で実現できたことに筆者らは感銘を受けた。

 なぜこの6チームは成功し、残りのチームは失敗したのか。筆者らは、参加者の専門分野から学歴、職歴の違いなど、あらゆる点を調査したが、これらの要因では結果を説明できなかった。チームはすべて、同レベルの専門知識を持ち、同じように困難な医療技術の課題に取り組み、リソース、材料、技術へのアクセスも同等だった。