
新型コロナウイルス感染症のパンデミックが起きたことで、健康食品の売上げが伸びただけでなく、ジャンクフードの売上げも上がっている。一見すると矛盾した現象に思えるが、実は理に適った行動である。コロナ禍で嫌悪感と不安が高まったことで、人々は慣れ親しんだ商品を求めているのだ。本稿では、人の感情が消費者の購買行動に与える影響を分析する。
ユニリーバのCEOは2020年5月、新型コロナウイルスのパンデミックの間は、消費者はより健康的な食事を取ると予測した。一方、マクドナルドのCEOは、消費者はビッグマックなどおなじみの人気メニューを再び求めるようになると確信している。
双方が正解ということはありえないだろう。
それとも、ありうるのだろうか?
オーガニック食品や健康食品の売上げは実際、急増している。しかし、クッキーや塩分の多いスナックの売上げも同様だ。オレオやドリトスなどの有名ブランドは長年、ますます健康志向が進む消費者の獲得に苦労してきたが、ここ数カ月はかつてない売れゆきを見せており、マクドナルドのドライブスルー事業は活況を呈している。
何が起きているのか?
進化心理学が、これをわかりやすく説明している。人間は感染症に対して強い感情を抱くようにできていて、その感情が消費者行動に驚くような影響を与えるという。
筆者らが最近実施した大規模な分析と実験で、ビッグマックとケールサラダの両方が同時に売上げを伸ばしているのは、消費者が現在抱えている2つの主な感情の表れとして、論理にかなっていることが確認された。その感情とは、嫌悪感と不安だ。
人は病を避けるようにできている
人が感染症の兆候に嫌悪感を抱くことは、過去の研究でわかっている。混雑した電車内でくしゃみをする人から本能的に遠ざかったり、路上で激しく咳をする人を避けたりする。
しかし、単に嫌悪感を抱くだけではない。感染症にかかる可能性によって不安やコントロールを失う感覚が生まれると、慣れ親しんだものを求め、異質なものを避けようとするのだ。
疾病と感情、購買行動の関連性の理解を深めるため、筆者らは米疾病対策センター(CDC)、グーグル・フルー・トレンド、ニールセンのデータを用いた2つの大規模な実証分析を実施。また、疾病が感情状態と家庭の購買行動にどう影響するかを調べるため、ペーパータオル、ジャンクフード、スープ、電池の4製品についての4つの実験を行った。
実験では、参加者に感染症(インフルエンザ)と非感染性疾患(心不全)のいずれかについて文書を読んでもらい、身近な商品と知らない商品のどちらを好むかを検証した。