不安と嫌悪感が
購買行動に与える影響

 その結果は、筆者らの仮説を裏付けるものだった。感染症について考えることで不安と嫌悪感の両方が増大し、その感情に反応し、参加者は信頼できる身近なブランドを求めることでコントロールを取り戻そうとした。人々は無意識に混沌とした世界をコントロールする行動を取り、それが食品選びにも及んでいるのだ。

 具体的には、病気が流行している地域では調査したすべての商品の購入が増加したが、身近な商品の購入が過剰に増えていたことが実証分析でわかった。この結果は、最近の購買傾向の説明に役立つ可能性がある。

 オーガニック食品の売上げ増は、マクドナルドのドライブスルーの長い行列と相反するように見えるかもしれないが、一見矛盾するこの2つのトレンドは実際には同じ感情状態を反映していることが筆者らの分析でわかった。不安と嫌悪感を引き起こす感染症に直面した消費者は、最も慣れ親しんだ選択肢に目を向ける(それが健康食品でもジャンクフードでも)。

 なじみのない商品を拒否する合理的な理由がなくても、さまざまな製品カテゴリーの中から消費者は慣れ親しんだブランドを好む傾向が強まっていることを、筆者らの研究結果は示唆している。たとえば、パンデミックの間にスープは全般的に買いだめが進んだが、キャンベルなどより知られたスープブランドの売上げは過度に増加している。

 同様に、人々はいま、オレオの新製品を試すよりも従来からあるオレオを購入する傾向が高いことが、筆者らの分析で明らかになった。不安が絶えない中、なじみのないオレオは多くの消費者が避けるリスクになっていると見られる。

マーケターが注意すべきこと

 こうした傾向は、ブランドマーケターにとって何を意味するのか。

 1つには、イノベーションは概してよいことだが、現在はコンシューマープロダクツにおいては、クリエイティブになるのに最適な時期ではないかもしれない。新製品のポテトチップスやアイスクリームのフレーバーを宣伝するのは心躍るかもしれないが、消費者の不安が少しおさまるのを待ったほうがいいだろう。

 製品戦略の面では、集中化の重要性が筆者らの研究で示された。飲食店や製造業者はソーシャルディスタンスを確保するためにキャパシティが制限されているかもしれないが、こうした制約は前向きな効果もある。消費者が最も重視している製品に集中せざるを得なくなるのだ。

 成功している企業は、新しい製品ラインや販売戦略に投資するのではなく、従来の売れ筋商品にリソースを集中させ、消費者が慣れ親しんだ商品の需要増に対応している。たとえば、マクドナルドは人気商品の限定メニューに戻すと、2013年以来続いていた売上げの減少を逆転させ、2020年3月以降の同社の株価の伸びはS&P500を上回った。

 通常時は、消費者は商品の健康性や価値、価格など実用的な判断に基づいて購買決定をすることが多い。しかし、不安や恐怖を感じている時は、実用的な判断が感情的な反応に圧倒されることがある。

 特に感染症に直面すると、不安と嫌悪感が親しみと予測可能性に対する自然な欲求を過熱させる。つまり、オーガニック食品の売上げが伸びる中で、ビッグマックの人気も復興し、オレオが飛ぶように売れるのだ。

 感情が消費者の選択にどう影響するかを理解することは、効果的なマーケティングと販売の戦略を生み出すカギだ。パンデミック下でも、その後も。


HBR.org原文:In a Pandemic, We Buy What We Know, November 25, 2020.