知恵と思いやりを育むために
実践可能なルーチン
筆者らのデータに関して最も重要な発見の一つは、マインドフルネスを習慣にすることが、知恵と思いやりを高めるということだ。
これがリーダーシップ・スタイルに効果をもたらす理由の一つは、マインドフルネスの実践を通して他者の振る舞いや感情をより自覚し、より認識できるようになるからだろう。リーダーは意識とプレゼンスが高まると、知恵と思いやりをより意図的に実践できるようになる。
続いて、リーダーシップ・スタイルの構成要素として思いやりと知恵を伸ばすためのヒントを紹介する。まず、知恵は十分にあるが、もっと思いやりを育む必要がある人は、以下のような取り組みができる。
・セルフ・コンパッション(自分に対する思いやり)を深める:他人に対する誠実な思いやりは、自分に対する思いやりを持つことから始まる。自分が過剰な負担を抱えてバランスを崩していては、他人がバランスを取る手助けなどできない。質の高い睡眠を取ることや、日中に休息することも、セルフ・コンパッションの一つだ。
多くのリーダーにとって、自分に思いやりを持つことは、強迫的な自己批判をやめることでもある。もっと違うやり方があったのでは、もっとよいやり方があったのではないかと、自分を非難するのをやめよう。助けを必要としている親友や同僚に、自分に対するのと同じような言い方は、おそらくしないだろう。
代わりに、肯定的な独り言を身につける。そして、挫折を学びの経験として捉え直す。将来、どのようなことを今回と異なるやり方でできるだろうか。
・自分の意思を確認する:人と会う前に自分の意思を確認することを習慣づける。相手の立場になって考えよう。相手の現実を踏まえて自分に問いかける──この人のために、彼らのために、どうすれば最善を尽くせるだろうか。
・思いやりの練習を継続する:思いやりは、鍛えることができるスキルだ。私たちの脳には、驚くほどの神経可塑性がある。つまり、自分がつくり出した精神状態が、より強く、より顕著なものになりうるのだ(筆者らは思いやりを高めるうえで役立つアプリを開発した)。
あるいは、思いやりは強いけれど知恵を高めたいという人は、次のような方法が役に立つだろう。
・率直な透明性を実践する:人が耳を傾けにくい内容であっても必要な指針を示すことは、リーダーとしての責任である。パフォーマンスが悪いメンバーがいれば、何に取り組むべきかを率直に伝える。
思いやりを示そうとして、あなたが懸念していることを隠せば、相手は自分に対する期待を理解することも、あなたの知恵から恩恵を受けることもできない。厳しい批判を隠すことは思いやりではない。誤解を招くだけだ。明確に指摘することこそ、思いやりなのだ。率直に、かつ透明性を保つこと。
・1日1回、直接のやり取りを:生来の性分として思いやりがある人がそれを示すことは、自分のコンフォートゾーンでの取り組みだろう。それに加えて知恵を深めるために、毎日少なくとも1回は、対面で積極的なやり取りをする習慣をつくる。自分が快適さを感じる空間から抜け出して、リーダーシップの知恵を身につけやすくなるだろう。
・マインドフルネスのトレーニングを継続する:研究からわかっている通り、マインドフルネスを実践すると、知恵が深まり、リーダーシップの能力が向上する(マインドフルネスのトレーニングを始める際に役立つツールもある)。
今後もしばらく厳しい時期が続くだろう。人々がこの困難を乗り越える手助けをするには、知恵のある思いやりの心を持つことが、最も効果的で人間らしいアプローチになる。
集団で困難に直面している時は、厳しい決断が必要になるだろう。その厳しさに、私たちの誰もが、人間らしい方法で向き合わなければならない。
HBR.org原文:Compassionate Leadership Is Necessary - but Not Sufficient, December 04, 2020.