マネジャー:
職場の安全を積極的に推進する
多くの従業員は仕事に戻る際、コロナ禍の第2波(または第3波)の可能性があること、そしてソーシャルディスタンスの規制緩和にはリスクが伴うことを承知しているはずだ。復帰時の自分の健康と安全に対する懸念は、従業員にとって大きなストレスの原因になりやすく、そのストレスが労働意欲の大幅な低下を招きかねない。
マネジャーはこれらの現実的なリスクを、直接的に排除することは不可能だ。しかし筆者らの調査によれば、職場の健康と安全を積極的に推進・強化すべく尽力することで、従業員の懸念を和らげることができる。
マネジャーはまず始めに、健康・安全をめぐる規則と手順について組織の全員が完全に理解し順守するよう万全を期す必要がある。これには、マスクの着用や毎日の検温といった自社の指針を明確に伝達することや、重要な規則に違反した従業員については、温情を保ちつつも過ちを厳格に正すことなどが含まれる。
次に、従業員がそれらの規則を実際に順守できるよう、マネジャーは個人防護具と消毒用品の十分な確保に手を尽くすべきである。これはマネジャー個人の管轄ではない部分が大きいかもしれない。とはいえ、マネジャー自身で管理できる要素――明確な供給ラインや配給体制など――を決めるための策を少しでも綿密に練っておけば、大きな効果につながる。
加えて、コロナ禍を取り巻く状況は目まぐるしく変わる可能性があるため、組織や個々のマネジャーは、地元の保健所が定める最低限の健康・安全基準を大幅に上回る形で取り組みへの本気度を示すとよい。
たとえば、地元の規制当局によって公式に義務化される前に、社内でのマスク着用を積極的に義務づけてもよい。あるいは健康・安全対策のレベルを引き上げる基準値としての陽性率を、地元のガイドラインよりも低く設定するなどの方法もある。
最も重要な点として、従業員の健康・安全に対するマネジャーの取り組みは、単なるリップサービスであってはならない。従業員はマネジャーの言葉を聞いているだけでなく、行動をよく見ている。つまり、健康と安全をサポートすると伝えることは出発点として望ましいが、あくまでスタートにすぎない。
職場の安全に関する研究の数々で示されているが、安全に関わる事案の多くは、定められた手順から逸脱したマネジメント慣行に根本原因を帰すことができる。筆者らの調査で頻繁に見られたケースとして、マネジャーが有言実行を怠った場合、その言動不一致は従業員にとって「この会社は社員の健康・安全に本気で配慮していない」というシグナルになってしまう。
たとえば、あるバリスタが安全方針に従わない客に遭遇した場合、自社の方針を貫こうとしてマネジャーに助けを求めるかもしれない(この客からの売上げがなくなる可能性を承知のうえで)。もしマネジャーがバリスタを助けず、客にルール破りを許せば、この上司は従業員の健康と安全よりも利益を優先したと、バリスタは結論づけるかもしれない。
マネジャーがみずから定めたルールを本気で、一貫性を持って守ろうとしていない場合、従業員は自分の安全に対する懸念を募らせ、ひいてはストレスが高まり、意欲を減退させる可能性が高い。それが最終的に、ストレスと安全へのリスクの蓄積という悪循環を生むことになる。
今回の調査結果が如実に表すように、健康・安全に対するマネジメント側の尽力不足は従業員の意欲低下につながりうる。それによってパフォーマンスが下がるだけでなく、健康・安全規則を従業員みずからが守らなくなる。するとウイルスの感染拡大リスクがさらに増え、安全が脅かされ、ストレス度が危機的なレベルに達してしまうのだ。
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当然ながら、筆者らの調査は武漢の状況のみに焦点を当てたものであることに留意が必要だ。この地ではウイルスが最初に発生し、厳重なロックダウン、大規模なPCR検査、広範囲の接触追跡によって、何カ月も前にうまく収束へと至った。感染拡大の経緯や対処が地域によって異なることを踏まえれば、今回の調査結果は、ほかの国や地域に完全には適用できない可能性もある。
たとえば、感染リスクがより高い場所や、地元のガイドライン(またはその順守状況)があまり一貫していない地域では、従業員は健康・安全に対するマネジャーの取り組みを、よりいっそう気にかけるかもしれない。
加えて、一部の国々では2度目のロックダウンを実施中であり、「コロナ疲れ」が増えている。このため復帰時に意欲を保つには、心理的準備がさらに重要となるかもしれない。
とはいえ、地域に関係なく今回の調査が浮き彫りにしていることがある。ロックダウン解除後に意欲、生産性、そして何より重要な安全を効果的に高めるには、マネジャーと従業員が協力して取り組むことが大事なのだ。
HBR.org原文:Returning to Work After Lockdown: Lessons from Wuhan, December 11, 2020.