
新型コロナウイルスの感染拡大を防止するためにリモートワークが進み、同僚と対面でコミュニケーションを取る機会が減少したことで、組織文化の弱体化を懸念する声もある。しかし、組織文化を築くために、必ずしもオフィスで一緒に過ごす必要はない。事実、コンサルティング会社はコロナ禍以前よりリモートワークを採用していたが、強固な組織文化を持っていることで有名だ。本稿では、マッキンゼー・アンド・カンパニーの事例から3つのカギを紹介する。
パンデミックの発生に伴い、人々は現在、労働の歴史上で最も大規模な行動実験に取り組んでいる。かつては、先進技術時代における労働の未来について問いを提起してきた。しかしいまや、それらの問いは未来だけでなく現在にも関わっている。
最も差し迫った問いの一部として、以下が挙げられる。
従業員同士で直接会うことがめったにない場合、組織内で強固な文化を築き、維持するにはどうすればよいのか。皆で共有され実感される一連の規範、価値観、信条を、はたして維持できるのだろうか。物理的な共有場所がなくても、同じレベルの緊密性、コラボレーション、メンターシップを、ズームで本当に実現できるのだろうか。
これは未知の領域のようにも感じられるが、実はそうでもない。とりわけ大手コンサルティング会社は、バーチャルワークや(リモートと対面の)ハイブリッドワークにおいても、際立って強固な文化の構築が十分に可能であることを、一貫して示してきた。彼らの経験から、何が学べるだろうか。
コンサルティング会社の経験
筆者がキャリアの30年を過ごしたマッキンゼー・アンド・カンパニーは、最強の組織文化を持つという点で、しばしばイエズス会や米国海兵隊と並び称される。3者はそれぞれ明確に定義された規範、価値観、信条、前提を有し、それらは組織の全レベルで広く共有され、強く心に刻まれている。
マッキンゼーは自社の文化を、「クライアント・ファースト」「ワンファーム」「知識は何にも勝る」「アップ・オア・アウト」といったフレーズで明確に定義している。その文化を支える制度的仕組みとして、全社共通の単一の損益計算書、合意に基づく意思決定、セルフガバナンス、リーダーの選出などがある。
マッキンゼーにおける平均在職期間はわずか4年ではあるものの、同社の揺るぎない文化はこれまで、数十年にわたる収益性の高い成長と、ビジネス界内外での影響力の拡大を後押ししてきた。
ただし、マッキンゼーのようなコンサルティング会社の文化は、オフィスで多くの時間を過ごす社員たちに根差しているわけではない。少なくとも、彼らは「自分の」オフィスで長時間過ごすことはない。むしろ、その反対だ。
特別でない日にコンサルティング会社のオフィスを訪れた人は、社員たちはどこにいるのだろうと首をかしげるはずだ。社員は自分のクライアントと一緒にいる(べき)、というのが答えである。
新米のコンサルタントは、オフィスで多くの時間を過ごすつもりでいてはならないと教えられる。顧客ポートフォリオの調整が主な仕事であるシニアパートナーでさえ、大半の時間は離れた場所で働くことが求められる。
クライアントの現場、飛行機や電車の中、空港やホテル、そしてもちろん自宅。時には、自分のオフィス以外のあらゆる場所で仕事をしているようにさえ見える。この20年は特に、その傾向が顕著だ。テクノロジーによって、あちこち移動しながらの仕事が可能になったためである。
では、コンサルティング会社は、労働力が分散的かつ一過性でありながらも自社の文化を維持するために、何をしているのだろうか。筆者自身の職業経験とその後の研究によれば、成功のためには3つのカギがある。