社内でイノベーションを起こす

 あなたが社内でもう少し高い地位にあり、いくらかの起業家精神の持ち主であれば、これとは異なる思考様式で臨むことも可能だ。次の就職先を探すのではなく、いまの会社をどのように変えればよいかを考えることもできるのだ。

 向こう20年間で、農業製造業、サービス業などほぼすべての産業が変化を経験する。筆者が所属している大学教育の世界――教育の方法の多くの側面は、過去500年間ほとんど変わっていない――も、今後10年、20年の間に、大きな変化を余儀なくされる可能性が高い。

 自社のビジネスが変化に飲み込まれると思うのなら、みずからが自社の既存のビジネスを飲み込んでしまえばよいのかもしれない。

 そうした行動に消極的だった企業の典型例がコダックだ。同社は、デジタル写真のテクノロジーを開発した会社だったが、自社の写真フィルムの売上げに悪影響が及ぶことを恐れて、デジタル写真ビジネスをさらに追求することには腰が引けていた。

 デジタル写真が自社の中核ビジネスに壊滅的打撃を及ぼすという見通しは、間違っていなかった。しかし、他社に先駆けてデジタル写真の商品化に乗り出すチャンスを活かさなかったのは、誤った選択だった。

 対照的に、ネットフリックスのように、自社のビジネスを時代遅れにしかねない要素に、注意深く目を向け続けている会社もある。

 同社はまず、ビデオレンタル・ビジネス、とりわけ業界の巨大企業だったブロックバスターが実店舗を維持するための莫大なコスト負担に苦しんでいることに気づいた。そこで、もっとコストを抑えるために、実店舗を持たずにオンラインで顧客とやり取りし、倉庫からDVDを顧客の家に送ってはどうかと考えた。

 こうしたビジネスを始めてほどなく、ネットフリックスは、自社が動画のコンピュータファイルを、きわめて低周波数帯域の接続方法(要するに、米国郵政公社の郵便サービスのことだ)で送っていることに思い至った。この認識が動画配信モデルへの転換につながった。さらに同社は、他社制作のコンテンツを配信するだけでは顧客をつなぎとめられないことに気づき、オリジナル作品の制作と買いつけに乗り出した。

 あなたが自社の戦略にある程度の影響力を及ぼせる立場にあり、リスクをいとわないのであれば、業界の新しいトレンドにより自社が沈没する前に、そのトレンドを追い風にする方法を考えてみるとよい。それは口で言うほど簡単なことではないが、その出発点として役立つ問いがいくつかある。

 まず、以下の問いを検討してみよう。

・あなたの会社の最大の弱みは何か。ライバルがあなたの会社のビジネスモデルを葬り去ろうとする場合、最も簡単な方法は何か。
・あなたの会社のビジネスを突き崩すのを妨げる要因は何か。
・あなたが自社と直接競合関係にあるライバルだったら、市場でのシェアを奪うために、どのように行動するか。

 このような問いに答えることを通じて、他社があなたの会社や業界を時代遅れの存在にするための最も簡単な方法が見えてくる。

 自社の市場シェアを奪う方法を考えることにより、一般的な力学を変えることができる。ほとんどの企業は、ライバルからシェアを奪うにはどうすればよいかと考える。この思考様式で行動する企業は、それまでと同じことをより効率的に行おうとする。それに対し、自社のシェアを奪う方法は何かと考えれば、どうしても既存のビジネスとはまったく異なることに乗り出さざるをえなくなる。

 あなたの業界は、すべての業界がそうであるように、いつかは劇的な変化を経験する。迫りくる変化を嘆くのではなく、変化に真っ向から向き合おう。あなたの未来のキャリアは、変化をみずから生み出すとまではいかなくても、変化の先を行けるかどうかにかかっているのだ。


HBR.org原文:Worried You Might Be in a Dying Industry? January 04, 2021.