
ジェンダー平等を求める声は高まっているものの、雇用喪失や職場で疎外されることなど、コロナ禍によって女性が置かれている状況は一段と悪化している。その根源にあるのは、女性労働者に対する過小評価だ。筆者らは、そうしたバイアスと闘い、ジェンダー平等の実現に真摯に取り組む組織は「インクルーシブ優位」を得られると指摘する。本稿では、ジェンダー平等がもたらす恩恵を具体的に示し、シアーソン・リーマン・ハットン、バクスターインターナショナル、JPモルガン・チェースの事例から、実際にジェンダー平等を実現する方法を論じる。
ジェンダー平等を推進することが望ましいのは間違いない。だが、新型コロナウイルス感染症のパンデミックによって、世界経済が大きく揺さぶられている間は、不可欠なことだとは感じられないかもしれない。
しかし、それは真実とはほど遠い思い込みにすぎない。いま、ジェンダー平等を見失えば、パンデミックが終息に向かい始めた時、あなたの組織は極めて不利な立場に置かれる可能性が高い。
女性が職場で直面する壁については、すでに多くの研究結果があるが、パンデミックの最中で状況は一段と悪化していることが明らかになっている。米国では、2020年9月の離職者の80%が女性だった。なかでも、非白人女性が占める割合は大きい。
何とか仕事を続けてきた多くの女性も、仕事と子育ての両立はほぼ不可能だと判断するか、子どもをはじめ家族の世話に時間を注ぐことで、職場で不利な立場に置かれ続けている。また、子どもや家族のケアをする必要がない女性の場合も、バーチャルに移行した新たな職場で、これまで以上に厳しいキャリアの課題に直面していることは、筆者らが以前の論考で指摘した通りだ。
こうした雇用喪失の偏りや職場で疎外されることは、同じところに根源がある。つまり、女性労働者の貢献に対する過小評価だ(本稿ではジェンダーに論点を置いているが、同じ原理は構造的に過小評価されているあらゆるグループに当てはまる。米国の場合、その対象となるのは白人女性、非白人の男性と女性だが、国や地域によっては、疎外された宗教やカーストの場合もある)。
しかし筆者らは、女性の能力に対する過小評価につながるバイアスと闘う組織は競争優位を得られることを示す証拠を蓄積してきた。これを「インクルーシブ優位」と呼びたい。