ジェンダー平等の恩恵
ジェンダー平等がもたらす恩恵は無数にあるが、全体に共通して見られるものは10個ある。特に、現在のような不確実な時代には、なくてはならないものだ。
(1)優れた意思決定 ジェンダーや人種の多様性が確保されているグループやチームは、よりよい思考や問題解決ができる。これはいかなる場合も重要で、現在のように経済が混乱し、未来が不確かな時には、組織の存続に関わる重要性を持つ。
(2)イノベーションの重視 ジェンダー多様性がある取締役会は、男性中心の取締役会に比べて、イノベーションを重視することが、筆者らの研究で明らかになっている。また、イノベーションに重きを置いた戦略を採用する企業では、経営幹部に女性が多いほど優れた業績を上げていることを示す研究もある。
(3)有能な人材へのアクセス 女性が過小評価されている組織では、採用活動で女性が見落とされる傾向がある。女性の採用に力を入れている組織は、将来的にマネジメントに登用できる有能な人材が豊富になる。
(4)求職者からの信頼 複数の研究によると、企業のダイバーシティ(多様性)、エクイティ(公平性)、インクルージョン(包摂)に関する制度や方針は、実際の従業員や経営幹部の多様性とともに、あらゆるジェンダーの求職者が重視する条件となっている。デジタル採用プラットフォーム、ジップリクルーターの2020年7月のリポートよると、雇用者に多様性を求める求職者は前年比で222%上昇した。
(5)エンゲージメントと定着率の改善 女性は、昇進の見込みがないとわかると会社を辞める。リーンイン・オーグとマッキンゼー・アンド・カンパニーの調査によると、エントリーレベルの従業員に白人女性が占める割合は30%、非白人女性は18%だが、取締役候補の社内人材となると、白人女性は13%減り、非白人女性は驚くべきことに50%も減ってしまう。権力の中枢に女性が欠けていると、女性従業員は疎外され、相互の信頼関係が失われていると感じ、女性マネジャーに対しても信頼が低下する。より公平な環境を整えれば、競合他社が有能な女性を見送る中、あなたの会社は有能な女性を自社に留めておくことができるだろう。
(6)レジリエントな従業員 筆者らは、共著Glass Half-Broken(未訳)のために女性のシニアマネジメント数百人にインタビューを実施した。業界や業種、地域は多岐にわたるが、彼女たちの話によく出てきたのが、レジリエンス(再起力)だ。黒人女性リーダーに関する詳細な研究でも、レジリエンスが重要な資質であることが明らかになっている。女性が、依然として不平等な職場を生き抜くために、困難を乗り越える力を身につけることは、貴重なスキルと認められるべきだ。
(7)難題に立ち向かうリーダー 「ガラスの崖」現象とは、経営難に陥った会社では女性が経営幹部に抜擢されやすいことを言う。これは、男性が恵まれた仕事を与えられることに慣れているのに対して、女性のほうが危機を管理することに慣れている可能性が高いことを示唆している。
(8)頑強なネットワークを持つ従業員 ほとんどの組織では、社交や人間関係の構築が成功するうえで大きな役割を果たすが、女性がこうした集まりから排除されがちであることはよく知られている。その結果、女性は社外に目を向け、社内にいる身近な同僚の助言や知見に頼り切ることは少ない。そのため、女性の実績は現在の職場に依存しないようになる。女性は転職後すぐに、新しいことに全力で取り組むことができるのだ。
(9)セクハラの低減 マネジメントや事業の中核的役割に女性が多い企業では、セクシュアルハラスメント(性的嫌がらせ:以下セクハラ)の発生率が低い。セクハラは、女性が会社を辞める理由となっていることを考えると、この事実は重要だ。
(10)長期的なジェンダー平等の基盤 女性の代表を増やすと、ポジティブなフィードバックの循環ができ上がり、より多くの女性を採用し、定着しやすい環境につながる。今後、新しい生活様式が定着して、パンデミックによる混乱が収束した時、あなたの会社はジェンダー平等の最先端にいたいだろうか。あるいは、貴重な時間を失地回復に費やしたいだろうか。