部下を虐待した後の上司の行動

 筆者らは研究で、この可能性を日次調査のアプローチを用いて検証した。それにより、過去の研究において上司の虐待的な動機や行動を最も鋭く理解しているとされる上司自身をサンプルとし、そうした動機や行動を「リアルタイム」に明らかにすることができた。

 調査対象は、オンラインプラットフォームを介して研究への参加を自発的に申し出た上司79人。回答は匿名のため、職場での虐待的な行動や感情が率直に明かされた。コンサルティング、教育、ヘルスケア、小売業など、さまざまな組織や業界に所属する彼らに対し、1日2回、3週間にわたって勤務日15日連続で調査を実施し、部下を虐待した時の気持ちや反応を調べた。

 具体的には、前日のみずからの虐待的な行動について、部下に無能と言ったか、部下のプライバシーを侵害したか、部下についての否定的な発言を第三者にしたかといった質問を毎日した。同時に、前日の行動が、現在の自分のモラルや社会的地位にどう影響を与えたと感じているかを聞いた。そして同じ日の後半に、部下に対してその日どのような態度を取ったかを尋ねた。

 部下に虐待的な行為をした上司は、自分の社会的イメージが損なわれていると考えていることがわかった。そしてそれは、調査開始時に、部下にモラルがあるように「見せる」ことが自分にとって重要だと答えた人に特に顕著だった。つまり、モラルを守る「イメージ」を重視する上司は、部下を揶揄するなどの虐待的な行為をすることで、より社会的イメージを気にするようになっていたのだ。

 そして、虐待的な上司は社会的イメージを修復するために、複数の手段を講じたと回答した。具体的には、部下に好意的に見られるためにちょっとした便宜を図るといった印象操作や、ハードワークを強調したり過去の成功を示したりして自己宣伝の行動を取るなどしていた。しかし彼らは、真摯に謝罪するなど、前日に自分が与えたダメージを誠実に修復する行動を取ったと回答しなかった。

 虐待的な上司は、表面的には問題行動の後に被害を与えた部下に親切なように見えるかもしれない。しかし、研究に参加した上司は、表面的な印象操作をしようとしていると答えた。

 有害な上司は自分のやり方を変える可能性が低い。その主な理由は、彼らが重視するのが有害な行動を実際に「変える」ことではなく、相手を操作するためのご機嫌取りや自己宣伝によって、自分の悪い行動を「隠蔽する」ことだからだ。