
世界中の自動車メーカーはこれまで、電気自動車(EV)に巨額の投資を行ってきた。にもかかわらず、なぜテスラに脅威を与えるメーカーが誕生していないのか。その理由は、製品開発ばかりに注力し、充電ステーションへの投資を怠ったからだと筆者らは指摘する。テスラは早い段階で大規模な充電ステーション網を確立したことで、消費者が安心してテスラ車を購入できる体制を整え、市場を席巻した。本稿では、テスラが実行したプラットフォーム戦略をひも解き、他の自動車メーカーがこれから進むべき方向を示す。
この5年間、主要自動車メーカーは、電気自動車(EV)に巨額の投資を行ってきた。フォルクスワーゲン・グループは2017年、2025年までに傘下のブランド全体で合計80車種のEVを新たに売り出し、2030年までには自社の全車種のEVを発売する方針を明らかにした。同年、ゼネラル・モーターズ(GM)は、2023年までに少なくとも20車種のEVを新たに売り出す計画を発表した。
EVに注力している自動車メーカーは、この2社だけではない。ブルームバーグ・ニュー・エナジー・ファイナンスの予測によれば、2022年には全世界で合計500車種のEVが流通するようになるという。
しかし、このように巨額の投資が行われているにもかかわらず、EV市場を牽引するテスラモーターズに本格的な脅威を与えられている既存の自動車メーカーは見当たらない。テスラは、もはやEVの代名詞と言っても過言でない存在になっている。
この状況は意外に思えるかもしれない。1000億ドルを超す黒字を毎年計上していて、自動車製造に関して豊富な経験を持ち、大きな市場シェアを握っているメーカーがEVに本腰を入れれば、テスラは一巻の終わり、と予測するのが自然だからだ。
では、消費者はなぜ、アウディのイートロンや、GM傘下のビュイック、キャデラック、GMC、シボレーなどのブランドが送り出した魅力的なEVではなく、テスラのEVを選び続けているのか。
その理由は、おそらく驚くほどシンプルなものだ。テスラ車であれば、便利な場所に充電ステーションがあり、遠くまで安心して出かけられるという安心感があるのだ。
既存自動車メーカーがEVという製品に磨きをかけることにばかり熱を入れているのに対し、テスラはEVという乗り物の利用に関わるシステム全体に目を向けて、消費者が運転に関して抱く中核的ニーズを満たすことを目指してきたのである。