
新型コロナウイルス感染症の流行で物理的な接触が制限され、リモートワークが急速に進んだ。その際に課題とされるのが、組織文化の希薄化だ。感染症が終息しても全員がオフィスに戻るわけではなく、リモート勤務とオフィス勤務のハイブリッドの働き方が主流になることが予想される。インフォシスやアリババ、IBMがすでにやっているように、オフィスでの直接的なコミュニケーションを前提に文化を構築する発想を見直し、リモートファーストの発想に移行することが重要だと筆者らはいう。
コロナ禍によって多くの組織は完全なリモート勤務を強いられたが、その体験は大方が想像していたほど悪いものではなかった。結果として、新型コロナ危機後に多くの労働者と企業を待ち受けているのは、ハイブリッド型の働き方である。つまり、リモート勤務とオフィス勤務の両方から最もよい部分を取り入れた勤務形態だ。
この新しい働き方に順応するのは、理論上は容易に思えるかもしれない。だが実際にはそれほど単純明快にはいかないだろう。組織文化に関しては、なおさらである。
多くのリーダーにとって、企業文化が最大の懸念事項であるのは無理もない。
オフィスで行われていた慣行や催しごとが成り立たず、従業員は同僚やリーダーと対面でのやり取りをほとんど、あるいはまったくやらない。こんな環境に向けて、文化をどう再考すればよいのだろうか。
永続的な文化の確立につながる絆を築き、言うまでもなく新入社員もそこに溶け込ませるには、どうすればよいのか。一部の人は出社し、ほかの人はどこからでも仕事をするという状態から生じる新しいリズムに合わせるために、自社の文化をどう再定義すればよいのだろうか。
リモートやハイブリッドの環境では企業文化はいずれにせよ消失する、などということは当然ない。文化的な信条と規範はなおも生まれ、強化される。しかしそれらは、かつてオフィスで確立されていたシステムとルーチンによって導かれることはない。もっと可変的で、従業員の日々の生活における仕事以外の新たな諸要因の影響を受ける。
リモート期間中の文化の維持と構築について懸念を共有する世界各地の企業幹部に、筆者らはインタビューを実施した。その結果、困難はあるものの、有力企業による有望な実験も進んでいた。今後のリモートファーストまたはハイブリッドの体制で、組織を強化し、レジリエンス(再起力)を高めるにはどうすればよいかが、そこには示されている。
それは漸進的な改善ではない。文化はリモートでも進化するものであり、自社の文化を維持するため、または新たな方向へと導くためには、相当の時間と労力を注ぐ必要があるという事実を認識しなければならない。文化の伝え方を再考するために必要な努力を怠る組織は、予期せぬ結果を迎えることになるだろう。