ケーススタディ(2)自己憐憫に溺れず、感謝の気持ちを示す
ジェームズ・イーグルマンは、旅行用品のレビューサイト「トラベリングライト・ドットコム」の創業者だ。このサイトをつくった目的はひとえに、オンラインビジネスを構築して、収入として十分な額を稼ぎ出すことだった。
創業から数年以内に、その目的は難なく達成された。仕事は楽しく、ウェブサイトは利益をもたらし、彼は自由と柔軟な働き方を謳歌していた。
ところが数年前、イーグルマンはパートナーと破局し、大きなショックを受けた。「ベッドから起き上がるのもつらかった」と彼は振り返る。「仕事にまったく情熱を感じられなかった。すべてが無意味に思えた」
イーグルマンはみずから採用したフリーランスのライターをレイオフして、新しいコンテンツを更新するのもやめてしまった。やがて、読者と収入が減っていった。2020年初め、新型コロナウイルス感染症のパンデミックが始まると、同社は赤字に転落した。「私は自己憐憫に溺れていた」と、彼は振り返る。
コロナ禍の早い段階で、イーグルマンは「エッセンシャルワーカー」という概念について考えるようになった。「危機の時、最も価値のある労働者は、最も単純な仕事をしている場合が多いことに気づいた」と彼は言う。「バスの運転手は英雄だ。医療従事者も、食料雑貨店の店員も英雄だ。社会を維持するために、自分の命を危険にさらして働いているのだから」
イーグルマンの中で、感謝の気持ちが高まった。彼は食料雑貨店の従業員と顔を合わせるたびに、何度も礼を言うようになった。「彼らがいかに感謝されているか、伝えたかった」
その経験は、彼に大きな気づきをもたらした。「社会にとって価値のある存在でいるためには、いかにも聖人のような仕事に従事している必要はないこと。そして、私が価値を置いていた自由が過大評価されていることに、ようやく気がついた」と彼は語る。「私たちは皆、互いに緊密に結びついているのだ」
その経験は転機にもなった。イーグルマンは、アフィリエイト広告を取ることに全力を注いでいたビジネスモデルを、シンプルで役に立つ情報を提供するビジネスモデルにつくり変えた。現在、トラベリングライトには月間10万人のユニークユーザーがいる。フリーランスのライターも一部を雇い戻すことができた。
「これまでにないほど、トラベリングライトのコンテンツを誇りに思っている」とイーグルマンは話す。「読者が必要とする情報を迅速に提供することで、彼らの日常をわずかでも楽にできるなら、私も少しは社会の役に立っていることになる」
自分の仕事に意義を見出せないと苦しんでいる人に対する、イーグルマンのアドバイスはシンプルだ。「自分自身が英雄である必要はない。どのようなことであれ、自分ができることで、世の中の役に立てるようベストを尽くすだけだ。それが、社会の一員であるということのすべてなのだから」
HBR.org原文:How to Find Meaning When Your Job Feels Meaningless, February 03, 2021.