
中国は当初、人工知能(AI)研究で米国に大きな後れを取っていた。しかし、ここ20年の成長は目覚ましく、いまやAI分野の論文と特許の数で世界のトップを走っている。なぜ中国は短期間の急成長を実現できたのか。筆者らは、同国ならではの3つの特徴的な要因を挙げた。ただし、それらの要因が、今後のさらなる発展を妨げる可能性があるとも指摘する。
20年前、米国と中国の人工知能(AI)研究の水準には極めて大きな開きがあった。米国では官民の両方でAI研究が着々と進展していたのに対し、中国は世界の製造業の中でまだ低付加価値の活動を続けていた。
しかし、その後、中国が急ピッチで米国に追いついてきた。中国はいま、AI分野の論文と特許の数で世界の先頭を走っている。このまま行けば中国はAI関連の研究だけでなく、音声認識や画像認識などのAI技術を土台とするビジネスでも世界のトップに立つだろう。
中国の前進には目を見張るものがある。本稿の筆者の一人(リー)が主要メンバーとしてまとめた「中国人工知能発展報告2018」(China AI Development Report 2018)、そしてAIテクノロジーが経済と社会に及ぼす影響に関する現在進行中の研究を参照すると、その点がくっきり見えてくる。
中国がAI分野における学術論文で占めている世界シェアは、1997年には4.26%(1086点)だったが、2017年には27.68%(3万7343点)に跳ね上がり、米国を含むすべての国を抜き去った。中国は現在まで、トップの座を維持している。 AI関連の特許申請件数でも、中国は他の国々を上回っている。
2019年3月の時点で、中国のAI関連企業の数は1189社だ。これは、米国に次ぐ数字である(米国で実際に事業活動を行っているAI関連企業は2000社以上)。中国のAI関連企業は他国の企業と比べて、音声(音声認識や音声合成など)や視覚(画像認識や動画認識など)に力を入れている。
強烈なデータだと感じるかもしれないが、これだけを理由に、中国がAI分野におけるイノベーションでも世界のトップに立つとは言い切れない。逆説的に聞こえるかもしれないが、中国がイノベーションのフロンティアに到達するのを後押ししてきた要素が将来の進歩を妨げる可能性がある。
この点を明らかにするために、筆者らは過去の研究を発展させる形で、企業、大学、研究機関、政府組織など、15のAI関連の組織で聞き取り調査を実施し、キャッチアップ・サイクルという考え方を用いて、この問題を検討した。キャッチアップ・サイクルとは、ある産業でトップに立つ国がどのように交代していくかを説明するための理論的な枠組みだ。