課題と未来の見通し

 さまざまな指標によれば、中国はAI関連テクノロジーの開発と市場への投入で世界の先頭に立っていると言えるだろう。中国のAI産業に特有のテクノロジー・市場・政策環境を追い風に、中国企業は世界のトップを走っていた企業に素早く追いつくチャンスを得たのだ。

 しかし、逆説的な話だが、中国の目覚ましいペースでのキャッチアップを可能にした要素が、中国のAI産業のさらなる発展の妨げになる可能性がある。

 たとえば、AIがオープンサイエンス的な性格を持っていて、しかもこの分野では俊敏な後発者が有利なため、中国企業はAI分野の核を成すテクノロジーの開発に投資する意欲を持ちにくい。

 主要国では、AI関連の特許を保有しているのは主として民間企業だが、中国では、AI関連の特許申請の過半数は大学と研究機関によるものだ。そうした大学や研究機関の大半は、政府が保有していたり、政府の支援を受けていたりする。

 ところが中国の場合、大学と産業界の結びつきは比較的弱い。技術移転もかなり限定的なものにとどまっている。全体として見れば、中国ではAI関連の研究成果(学術論文や特許など)の総量は比較的急速に増えているが、真に独創的なアイデアや画期的なテクノロジーは乏しい。

 そのうえ、中国ではビジネス環境の先行きが不透明な反面、現在の市場規模が極めて大きく、消費者の購買意欲も強い。その結果、企業や投資家は、将来まで長期にわたり恩恵をもたらす基礎研究よりも、目先の利益を生み出す応用研究を好む傾向が目立つ。

 より根本的な問題もある。多くの研究者が指摘しているように、中国の学術研究文化には改善の余地が大きい。

 また、政策面では、規制の緩さが両刃の剣になる場合もある。規制が厳しくない環境をうまく活かして、さまざまな商品を市場に送り出す積極果敢な企業がある半面、政策の不透明性が高く、どのような行動が許容されるのかが不明確なことに不満を抱いている企業もあるのだ。

 医療機器会社の蘇州ブルーアンバー・メディテックの会長は、そうした不透明性ゆえに、グレーゾーンに該当しかねないデータにはいっさい触れないことにしていると述べている。具体的には、個人の医療データを他の商業目的で利用することはしていない。

「触わる必要のないデータには触れない、というのが現在の私たちの考え方です。(中略)でも、データに触れなければ、そのデータの価値のかなりの部分は活かされないままで終わってしまいます。当社としては、政府が早期に規制の内容を明確化してほしいと思っています」

 いま世界のビジネス環境とテクノロジー環境は、米国と中国の貿易戦争と知的財産権をめぐる対立の激化、脱グローバル化の動き、保護貿易主義の高まりなど、政治的な不確実性に直面している。

 これらの要素はAI分野での中国のキャッチアップのプロセスに影響を及ぼすが、この分野における中国のイノベーションのペースと方向性にどのような長期的影響が及ぶかは、まだ見えてこない。それでもはっきりしているのは、そのような不確実性はあるにせよ、AI分野における米中のコーペティション(競争と協調)が今後も続くということだ。


HBR.org原文:Is China Emerging as the Global Leader in AI? February 18, 2021.