●的確で素早い実行を要求しつつも、「組織の愚かしさ」という余地を持つ

 現在のように厳しい時期には、困難な仕事も引き受けなくては成功できない。不安な顧客のニーズを満たし、ストレスで疲弊した同僚と協働し、仕事と家庭のバランスを取ることに日々奮闘することは避けられないのである。

 だが、組織として細かいことに目を向けすぎると、想像力やブレインストーミング、すなわちスタンフォード大学経営大学院名誉教授の故ジェームズ G. マーチが「組織の愚かしさ」(organizational foolishness)と呼ぶものを犠牲にする。

 マーチは有名な論文「組織変革の脚注」(Footnotes to Organizational Change)で、最高のリーダーは、慎重なプラニングや健全なプロジェクト管理といった「明らかに賢明な変革プロセス」と、遊びの時間や実験、既成観念に囚われない発想とのバランスを取ると指摘している。すなわち「正当化するのは難しい」かもしれないが、イノベーションを創出する「幅広いシステムにとって重要」な「愚かしさの要素」だ。

 そのバランスを実現することは、組織の健全な業績だけでなく、同僚のメンタルヘルスにとっても、かつてなく重要になっている。人間は遊びの余地がなければ、ポジティブでいるのは難しい。

 ●全員が問題解決者になることを求め、物事を解決する余地を与える

 バージニア大学ダーデンスクール・オブ・ビジネス教授のサラス D. サラスバシーは10年以上前に、イノベーターと起業家は物事をどのように進めるかに関する研究論文を発表し、大きな影響を与えた人物だ。

 一般的に、成功したイノベーターには他の人々には見えない未来を予測する力があり、その未来を現実にするために緻密な計画を練って、自分たちの取り組みを支援してくれる金銭的・人的リソースを獲得すると考えられている。

 現実には、ほとんどのチェンジエージェントは「自分らしさ」(自分の「特質、好み、能力」)から始める。そこから「自分が知っていること」(自分の「学んだこと、専門性、経験」)を駆使して、さらに「自分が知っている人」(自分の「社会的・専門的ネットワーク」)を加える。サラスパシーは、このアプローチを「手中の鳥の原則」と呼ぶ。

 この原則に倣えば、新しいベンチャーを立ち上げたり、物事をよりよくしたりすることは「もはや、とてつもなく大きなリスクを伴う英雄的な行為ではなくなる」と、彼女は論じている。「それは、自分の日常生活の制約と可能性の範囲内でできる何かだ」

 セオドア・ルーズベルト元米大統領との言葉を借りれば、「自分がいる場所で、自分が持っているもので、自分ができること」をやるように同僚を促すことで、リーダーは楽観主義につながる行為主体性の精神を創出することができる。