●職能を超えた計画と連携を強化する
テッドの会社のように、多くの連携ミスこそが、英雄による解決を必要とする危機をもたらす。現代の仕事のほとんどは、組織内の境界線をいくつもまたがるために、失敗が最も起こりやすい場所は組織の境界線上にある。そこでは複数の機能の協力が不可欠だ。
英雄文化が存在するある企業では、個々の部門の中で戦略がボトムアップ式に決定され、それをつなぎ合わせる作業はCEOら経営幹部に任されていた。問題は、部門を超えた調整がなされていなかったことだ。
たとえば、ある地域が第2四半期の売上げの呼び水として期間限定キャンペーンの実施を目標に盛り込んだ場合に、この目標を商品開発やマーケティングやサプライチェーンがサポートできるように、これらの部門からリソースを確保する作業をやらなかった。そのため第2四半期の終わりが数週間後に迫った時、これらの部門に自分たちの部門の目標を達成させるために「火事」を起こさなければならなかった。それを解決できるのは英雄だけだ。
これとは対照的に、成熟した企業では、計画立案プロセスを垂直的にも水平的にも調整する。すべての目標が出揃い、それを実現するためのリソースが確保され、それが関係部門すべての戦略に盛り込まれるまで、いかなる戦略的計画も正式に採択されることはない。また、目標は組織の境界線を超えて慎重に調整されるので、実行に当たる人たちが英雄である必要はなく、自分たちの努力を同期させることができる。
●個人と同じようにチームにも報酬を与える
人事考課や能力評価の時、日頃頼りにしている英雄について、あなた自身がどう話しているかに注意を払おう。必要不可欠な従業員でありたいという彼らのニーズを、うっかり補強してはいないか。望ましいタスクという「報酬」を与えられていないか。昇進や特別なボーナスを与えられていないか。
彼らの英雄としての地位を強化することは、彼らを肯定するよりも残酷かもしれないことを理解しよう。英雄というアイデンティティを補強されたスタッフは、不健全な義務感や、ノーと言うことへの罪悪感を抱き、最終的には燃え尽きたり、自分のことを特別だと思ったりするようになるかもしれない。彼らがスポットライトを浴びることに嫉妬する同僚が出てくると、英雄としての輝きが怒りの源になるかもしれない。
成熟した組織は、そのシステムにチームワークが組み込まれている。誰かを助けたり、助けを求めたりすることに報酬が与えられ、場合によっては、目標を達成できなくても達成に近づけていることに報酬が与えられる。
たとえば、マイクロソフトは、人事考課システムに個人的な貢献のほかに2つのカテゴリーを加えた。「他者への貢献」は、他人の仕事をサポートするために、どれだけうまくコラボレーションしたかに注目する。「他者の活用」は、どれだけうまく周囲に助けを求めたかや、他人のアイデアを強化したかに注目する。
これにより従業員は自分のユニークな貢献を理解する一方で、共通の目標を達成するために、自分がどれだけ周囲を頼りにし、周囲がどれだけ自分を頼りにするかを理解できるようになる。
誰かに必要とされている感覚や、ピンチを救う感覚を嫌いな人間はいないが、それが日常であるべきではない。もし自分の組織は危機の時は素晴らしい働きができるのに、どうして平時はうまくいかないのかを長い間考えあぐねてきたのなら、立ち止まって、自問すべき時かもしれない。
あなたの英雄たちは、あなたが思うような傑出したコミットメントと犠牲の精神の象徴ではないのかもしれない。あなた自身に大きな問題があることを明らかにしているだけかもしれないのだ。
HBR.org原文:Does Your Company Lurch from Crisis to Crisis? March 02, 2021.