ネットワークづくりの意外な代償

 数々のバイアスと差別にさらされている高齢の長期失業者は、どうすれば専門職としての就職先を見つけられるのか――。

 筆者はリクルーターたちに対して、そうした人たちへのアドバイスを尋ねてみた。すると、誰もが同じことを言った。ネットワークづくりに励むべし、というのだ。

 この昔ながらのアドバイスには、たしかに利点もある。しかし、筆者の研究によれば、長期失業者がネットワークづくりに努めると、社会的・情緒的な面で大きな代償がついて回る場合がある。

 筆者が話を聞いた長期失業者たちは最初のうち、元同僚など、大勢の職業上の知り合いと連絡を取ることができた。ほとんどの求職者は、そうした人たちに推薦や紹介をしてもらうことにあまり苦労していなかった。

 しかし、時間が経つにつれて、この戦略は次第に難しくなっていった。リクルーターたちが長期失業者に厳しい眼差しを向ける原因になるのと同じ要因が、ここでも作用し始める。長期失業者に押されるスティグマが悪影響を及ぼすのだ。

 ●自信

 ハーバード大学を卒業して、失業するまでいくつかの有力金融機関で働いてきたシャロンは、こう述べている。「大半の長期失業者に共通する問題は、職が見つからないせいで、自分に何か問題があると思ってしまうことです。そうした認識は、自信と自己意識に悪影響を及ぼします。自分にできることにも目が向かなくなるのです」

 1年以上、仕事が見つからない状態が続くうちに、ネットワークづくりのことを考えただけで「胃に穴が開きそうになった」と、シャロンは言う。昔の同僚に連絡を取ろうと思っても、「『シャロンはまだ職が見つからないの? どうしたのだろう』と思われるのではないか」と考えずにいられないというのだ。

 ●恥

 職業上の成功とみずからのアイデンティティが緊密に結びついている人は、昔の同僚と連絡を取ろうとすると、屈辱感で胸が痛くなる。

「恥ずかしいんです」と、スティーブンは言う。「私のことを上司や同格の同僚として長年知っていた人たちがいます。その人たちに、『力を貸してほしい。何でもするから』と言わなくてはならないのです」

 昔の同僚に連絡を取れば、職業上失脚したと宣言するに等しいと感じてしまうのだ。

 ●自己不信

 採用を断られることが繰り返されるにつれて、自己不信が強まり、ネットワークづくりにますます腰が引けてくる。

 チャールズは、自信喪失によりネットワークづくりに消極的になっていることを打ち明けた。「私に興味を持ってくれるはずがない。私がこの人の役に立てることなんてない」と思ってしまうのだという。

 チャールズによれば、こうした疑念を抱く根底には、もっと根本的な疑問がある。それは、「私という人間に、いったいどんな価値があるのか」という問いである。

 このような状況に追い込まれた求職者は、しばしば「物乞い」という比喩を用いる。スティーブンはこう述べている。

「私が職を得るためには、コネを使うしかなさそうに思えます。そこで、職業団体の会合にも顔を出したのですが、通行人に小銭を恵んでもらおうとする物乞いになったような気持ちになります。
 私はこれまで誰にも頼らず、自分の力ですべてやってきました。むしろ、物事の取りまとめ役を務めるタイプだったのです。そんな私にとっては、『物乞いする』なんてありえない。嫌な言葉だと思う。
 実際、私は文字通りの意味で物乞いをしているわけではない。でも、胸の内では、自分が施しを求めているように感じています。私はその職にふさわしい人間ではないと、皆に思われるに違いありません」

 ●真正性

 長期失業者がネットワークづくりを行う際に難しいもう1つの要素は、自分の振る舞いに嘘臭さを感じてしまうことだ。「中古車セールスマン」になったような気分になると、ある人物は表現している。

 ネットワークづくりを成功させるには幾重もの仮面を被らなくてはならないと、求職中の長期失業者たちは誰もが感じている。失業期間の長さ、経済状況の苦しさ、情緒面の動揺、自信の乏しさなどを隠さなくてはならないのだ。

 そうしたいくつもの仮面を被ることで、求職者は自分を偽っているような感覚に囚われる。しかも、それに伴う罪悪感や、いつか仮面が見破られてしまうのではないかという不安も隠さなくてはならない。

 長期失業者たちはネットワークづくりの際、自己不信と情緒面の動揺を隠して、それとは正反対の自信満々なイメージを打ち出し、ポジティブなエネルギーを発散することに苦労する。シャロンは、その難しさをこう語っている。

「ネットワークづくりをする時は、失業が長引いていることでどのように感じているかをそのまま表現することは避けなくてはなりません。いかにも幸せそうに振る舞い、自信ありげな態度を取る必要があるのです。でも、実際にはいつも自信を持てるとは限らない。幸せな時ばかりではありません。そこで慎重に言葉を選び、相手の質問に答えなくてはなりません。
 こうした複雑な自問自答が私の頭の中で行われていることを知らない人は、私の様子を見て『この人は何を隠そうとしているのだろう』『何を知られたくないのだろう』などと感じます。私が相手に知られたくないこと、それは喉から手が出るくらい仕事がほしくて、その相手に就職のきっかけをつくってほしいと思っていることです。もし、いま目の前にいる人がその力になってくれなければ、また職探しを続けなくてはならないのです」

 以上のような経験はネットワークづくりの妨げになり、自信を持ったプロフェッショナルとしての求職者のアイデンティティを損なう。その結果として、長期失業に伴う情緒面の動揺がいっそう悪化しかねない。

 いま私たちが直面しているのは、数十年に一度とも言われる感染症危機だ。このような非常時には、長期にわたり失業していても偏見にさらされずに済むのではないか――。そう思う人もいるかもしれない。

 しかし、そう遠くない昔に、数十年に一度の金融危機が起きた時、長期失業者に対する偏見は消えなかった。楽観的な見通しを持ちたい気持ちはやまやまだが、新たな対策が講じられない限り、前回とは異なる結果になると信じるに足る理由はない。