社会学的知見に基づく支援の効用
要するに、既存の採用慣行とネットワークづくりのあり方は、長期失業者を苦しめている面が大きい。では、長期失業者を支援するために有効な方法には、どのようなものがあるのか。
この問いを検討するために、筆者はキャリアコーチやキャリアカウンセラーと協働し、キャリア・トランジション研究所(ICT)という非営利組織を通じて、求職中の長期失業者たちに無償で支援を提供してきた。ICTが行う支援は、旧来の失業者支援とは2つの点で大きな違いがある。
●長期失業に陥る理由を理解する
旧来の失業者支援が戦略面(履歴書の書き方、ネットワークづくりの方法、リンクトインの使い方など)の指導に終始するのに対し、ICTは、長期失業者が職探しで直面する構造的な障害を社会学的に解明することから出発する。
社会学的知見に基づく支援では、長期失業者が悪い自己イメージと自責の思考を抱く傾向を助長しないように、求職者の戦略が職探しの成果に及ぼす影響を誇張することを避けている。たとえば、筆者はICTの会合で、上述の実態をはっきり伝えるようにしている。
このような「社会学的なコーチング」は、制度的環境に光を当て、長期失業者の個人的経験の文脈に注意を払う。ほとんどの求職者にとって、採用プロセスはある種のブラックボックスだ。このブラックボックスの内部を明らかにすることは、2つの効果がある。
1つは、不採用になった時に自分自身に原因を求めなくなり、自分を責めたり、恥の意識を抱いたりしなくなること。もう1つは、今後の職探しで役立つ戦略が見えてくることだ。不採用の経験を客観的に受け止めることにより、失業が感情に及ぼす悪影響を和らげ、職探しを継続するために必要なレジリエンス(再起力)を保つことが可能になるのである。
●長期失業の経験をオープンに語り合う
支援のもう1つの重要な要素は、長期失業者の大多数が難しい負の感情を抱き、アイデンティティが傷ついて、社会的・感情的支援を受けにくくなるという現実をオープンにすることだ。社会学的支援では、求職者たちが過酷な経験や負の感情をコーチや同僚と話し合うように促してきた。
それを通じて、求職者たちは、ほかにも大勢の人たちが自分と同じ経験をしていることを知り、気持ちが軽くなる。「同じ境遇にある」(in the same boat)という言葉で、それを表現する人が多い。率直な会話をしてはじめて、人々はこのことを知り、情緒面で互いに支え合い、孤立感を緩和できる。
シャロンは、ICTの経験とほかの就労支援の違いについて、こう語っている。
「ほかの人(求職者)との絆を育むうえで最大の障害は、負の感情や経験について語ることをファシリテーターが嫌うことです。つらい気持ちや出来事を語ると、黙らされるのです。幸せそうな話題に終始することが支援になると思っているのでしょう。でも、そのせいで状況がかえって悪化している面もあります。人には負の感情を吐き出すことも必要です。それに、そうやって率直に話すことにより、自分が一人ではないと思えるのです」
プロジェクトマネジャーとして働いていたティナも、つらい経験を語り合うことが支援の重要な要素になっていると述べている。それにより、安心感を得られることが大きいようだ。「皆で語り合えば、自分が悪いわけではないと理解できます。自分に問題があるわけではないのです。皆、同じ経験をしているのですから」
スティーブンも同様のことを述べている。皆で語り合い、それまでタブー扱いされてきた感情について話す機会が得られたおかげで、失業中の自分をあまり責めなくなったという。恥の感情に関して率直な思いを語り、ほかのメンバーを支えることを通じて、スティーブンは長期失業について、あることが見えてきた。
「原因はあなた自身にはない。問題はほかにあるのです。罪悪感を抱くことをやめると、この落とし穴だらけのシステムにうまく対処できるようになります。罪悪感を持っていると、身動きが取れなくなります。たしかに、罪悪感を捨てても、落とし穴だらけのシステムそのものは変わらない。でも、少なくともそのシステムの中で、これまでよりうまく行動できるようになります」
興味深いのは、このような語り合いに参加した求職者たちが、ネットワークづくりで助け合うようになったことだ。自分にとっては適職でなくても、ほかのメンバーにうってつけの求人があれば、その人に紹介したりする場合がある。この種のネットワークづくりは、「物乞い」や「中古車セールスマン」のような経験とは大きく性格が異なる。
たとえば、バイオテクノロジー企業で研究員として働いていたダニエルは、ネットワークづくりのために自分を偽らなくてはならない状況に辟易していたが、ほかの長期失業者との関係はまったく異なる経験だったという。
「ほかの人たちと語り合うのは、たぶんはじめての経験でした。それは真のネットワークづくりと言えるものでした。(それまでのネットワークづくりと比べて)だいぶ自然体でいられます。同じ目的を持った人たちと大勢巡り合う機会にもなります」
同じ境遇の人たちに対しては、へりくだって懇願したり、本当のことを隠したり、嘘をついたりする必要がないのだ。
コロナ禍でこの戦略を実践する方法
言うまでもなく、コーチングに基礎を置く支援にも限界はある。その一つは、長期失業の根本原因を是正できないことだ。採用プロセスにおけるバイアスやスティグマを解消するためには、政府や企業のレベルでの取り組みが欠かせない。
また、筆者の研究はホワイトカラー労働者しか対象にしていない。ほかのタイプの働き手の状況を理解するためには、さらなる研究が必要とされる。
それでも筆者の聞き取り調査によれば、社会学的知見に基づくコーチングにより、長期失業者は職探しをしやすくなり、(全員が新しい職を見つけられたわけではないが)ウェルビーイングが高まると言えそうだ。
したがって、長期失業者のウェルビーイングを高めるうえでは、社会学的知見に基づく支援が不可欠に思える。この点は、長期失業の深刻化が予想される向こう数年間、とりわけ重要になるだろう。
長期失業者には、職を探す際に支援団体を探すことを勧めたい。それは地元の教会でもよいし、非営利団体や公的な就労支援センターでもよい。履歴書の書き方やネットワークづくりの方法を教えるだけでなく、全人的アプローチを採用し、長期失業が個人に及ぼすさまざまな悪影響を考慮した支援プログラムを選ぶようにしよう。
支援プログラムを始めたり、既存のプログラムを改善したりしたい組織や自治体には、ワーク・インターベンション・ネットワーク(WIN)が作成した新しい研修マニュアルとワークショップを勧めたい。
WINのプログラムは、ボストン・カレッジのデイビッド・ブルースタイン教授による主導の下、さまざまな分野の研究者と実務家が協働し(筆者もメンバーの一人だ)、失業の心理的・社会的側面に配慮した支援を提供している。特にスティグマと感情へのダメージへ対処することに重きを置いてきた(WINについてさらに詳しくは、ブルースタインに問い合わせてほしい〔David.Blustein@bc.edu〕)。
グレートリセッションとコロナ禍の経験を通じて明らかになったのは、どんなに立派な大学を出ていようと、そしてどれほど多くの経験とスキルを持っていようと、長期失業に陥るリスクはあるということだ。自分自身にまったく落ち度がなくても、そのような状態になるケースがある。
そこで、長期失業者へのスティグマが雇用市場でいかに大きな影響を持っているかを理解することが重要になる。その点の理解を深めることを通じて、政策決定者と企業は、公正と能力主義の理念を現実化するための重要な第一歩を踏み出せる。
また、長期失業状態にある人自身は、そのような状況にあるのは自分だけではなく、自分に問題があるわけではないとわかる。そして同じ境遇の人たちと手を携えれば、力が湧いてきて、支援を受けられると気づくことができる。
HBR.org原文:A Crisis of Long-Term Unemployment Is Looming in the U.S., March 18, 2021.





