AIガバナンスを企業活動に実装する6つのフェーズ
真に顧客のためにAIを役立てるには、AIにどんなアルゴリズミック・バイアスが混入する可能性があるかを精緻に理解し、「責任あるAI(レスポンシブルAI)」の実現に力を尽くす必要がある。
アクセンチュアではそのための5つの行動指針をAI理念「TRUST」にまとめた(図表2)。信用できる(Trustworthy)、信頼できる(Reliable)、理解できる(Understandable)、安全が保たれている(Secure)、共に学び合う(Teachable)の頭文字を取ったものだ。もちろん、これはあくまで原理原則であり、実現のためにはさまざまなレベルの組織改革や運用体制の構築が必要になる。
AIシステムのバイアスを検知する手法には、大きく分けて定量評価と定性評価がある。定量評価にはさまざまなツールが存在するが、適切な定性評価を行うためには、組織改革も欠かせない。AIの開発者だけではなく、幅広いステークホルダーの意見や視点を取り入れることが要点になるからだ。こうした視点の多様性を基盤に、性別、年齢、障害の有無、人種、信仰……といった、いわゆる「センシティブ属性」がAIの判断に影響を与えないように慎重に設計する必要がある。
以上を踏まえ、アクセンチュアでは、6つのフェーズを経てAIガバナンスを構築することを提案している。
フェーズ1は、AIプロジェクトに必要な助言または承認を行う機関として「倫理委員会」を設置することだ。深刻な倫理問題は、往々にして視点の欠如によって起きる。それを防ぐために、テクノロジーだけでなく、法律、ブランド、マーケティングなど多分野の専門知識を持つメンバーを招集し、多様性を担保することが重要だ。
フェーズ2は「経営トップのコミットメント」だ。AIガバナンスは、企業文化と整合して初めて力を発揮する。経営層が自ら意義を理解し、実践する姿勢を示せるかどうかが実効性の鍵になるのだ。その上で、フェーズ3として、具体的な方法論と理念を「研修&コミュニケーション」で社内に浸透させていく。
フェーズ4は「レッドチームと消防隊員」だ。ひとたびAIが炎上すれば、現実の火事のように自社に関係の深いパートナー企業にも影響が及ぶ。そこで、潜在的な脆弱性や見過ごされやすいリスクをキャッチするために、批判的にAIを評価できる独立性の高い専門チームと、トラブル発生時に初期に収束させるチームを組織しておくことが重要になる。
フェーズ5は「ポジティブな影響をもたらす倫理指標」だ。若い世代を中心にエシカル消費の意識が高まるなか、企業が消費者からの信用と信頼を勝ち取るためには、倫理的な組織文化が非常に重要なポイントだ。
フェーズ6は「問題提起できる環境」だ。組織に問題が発生したとき、誰もが誤報のリスクや報復を恐れず、ちゅうちょなく警報を鳴らせるかどうかが初動を決める。「隠蔽体質」はガバナンスの敵なのだ。組織文化は一朝一夕には変えられないが、少なくとも問題提起のための窓口は、仕組みとして整備しておくべきだろう。
アクセンチュアでは、こうした手順を、事例を交えて詳細に解説する「レスポンシブルAIガバナンスガイドブック」を公開しているので、ぜひ多くの企業に役立てていただきたい。