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2020年は新型コロナウイルスの感染拡大により需要の大幅な変化が起き、サプライチェーンも大きな打撃を受けた。黒字企業であっても手元流動性が一気に悪化するリスクに直面し、世界中の企業はキャッシュ(現金)重視の経営を行い、その確保に取り組んだ。手元資金の確保の必要性を認識させられたいま、企業は今後の景気の変動にも柔軟に対応できるよう、戦略的にキャッシュを重視した経営を行うべき時である。目指すべきは、キャッシュの効率的な使い方を追求する「キャッシュエクセレンス」の確立である。全2回の連載において前編にあたる本稿では、その意義や手段について述べたい。

新型コロナの危機下では
手元資金の確保が不可欠

 コロナ禍の影響により、世界中のCEOやCFOが「サバイバルモード」に入った。それまでの需給バランスが崩れ、サプライチェーンに大きな影響が出たことで、企業は事業継続のために必要な資金の確保に注力した。

 特に航空、観光、オンラインを除く小売、石油・ガス産業などは、需要の落ち込みに加え、営業時間の短縮といった規制によって大きな打撃を受けた。

 このような状況下では、(営業利益や純利益といった利益指標ベースで)黒字の企業であっても、需要の急減あるいは注文処理や代金回収の遅延によって、手元流動性が一気に悪化する可能性がある。

 マッキンゼーが実施した調査によると、CFOの40%がコロナ禍において実際の資金の出入りとキャッシュフローが悪化し、特別な対応を求められたとしている。資金繰りの悪化の可能性に直面した結果、通常時から「キャッシュエクセレンス」を確立する必要性を重視する企業が増えている。

 キャッシュエクセレンスとはすなわち、キャッシュ(現金)の効率的な使い方を追求することだ。インフローの最大・最速化、アウトフローの最小・最遅化によって事業のオペレーションに必要な(投資には用いない)キャッシュの量を圧縮するのである。

 コロナ禍において手元資金の確保の必要性を認識させられたいま、今後の景気の変動にも柔軟に対応できるよう、戦略的にキャッシュを重視した経営を行うべき時なのである。

運転資本のキャッシュエクセレンス

 多くの企業は、損益計算書(PL)を見て自身のパフォーマンスを評価する一方、キャッシュフローの大切さを忘れがちである。

 日々の業務における方針決定や経営判断がキャッシュフローにどう影響するのかを意識し、キャッシュの量の動きをフォローしながら経営を行う、キャッシュマネジメントが求められている。

 実際、効果的なキャッシュマネジメントを行っていた企業は、新型コロナ危機下において高いレジリエンス(事業を再起させる力)を発揮している。

 このような企業は、仕入れのための現金を支払ってから、実際に売上金を回収するまでの「キャッシュ・コンバージョン・サイクル」(CCC)が短いことが特徴として挙げられる。

 逆に、キャッシュマネジメントが弱い企業は投資を先送りしたり、悪いケースでは経営破綻に追い込まれたりしている。以降では、いかにしてキャッシュを効率的に扱うべきか、運転資本を中心に解説したい。

 運転資本とは、営業活動に必要な現金であり、売上債権、棚卸資産、買入債務の3要素に分解される。運転資本を圧縮することで、より少額のキャッシュで事業運営ができることになり、キャッシュの効率的な使い方が実現される。