ワワとQT:知られざる優秀サービス企業

 一流の顧客サービスについて考える時、最初に名前が思い浮かぶ企業はどこか。ほとんどの人は、ノードストロームやザ・リッツ・カールトン・ホテル、あるいはそのようなテーマの記事で紹介される一流企業を連想するに違いない。

 実際、文献や知識をひもとくと、一流の顧客サービスはごく少数の限られた企業にのみ許される領域であり、小売業などは、このような高尚な域とはまったく無縁で、せいぜい二流ないしは三流のサービスを提供するのが精一杯かのようである。

 そう結論づけるのは簡単だが、マス市場を対象にしている企業でも、顧客と従業員のインタラクションのなかで一流の顧客サービスを提供し、そこから利益を得ている。その秘訣は、従業員を「生きたブランド」と位置づけ、自社ブランドのコア・バリューを提供するために研修と能力開発に多くの時間とエネルギーを傾けることだ。実際これらの企業は、自社ブランドの意味と役割を簡潔なメッセージで伝える一方、従業員の育成に尽力している。

 ここでは、コンビニエンス・ストアを経営する2社の例を検証してみたい。一つは、オクラホマ州タルサに本社を置き、アメリカ中西部から南部にかけて、9つの州で462店舗を展開するQTこと、クイック・トリップである。もう一つは、ペンシルバニア州ワワに本社を構え、東部5州で500店舗以上を展開するワワである。

 QTは『フォーチュン』誌の「理想の職場100社」に3年連続でランク入りを果たしている(2005年度は第19位)。離職率はQTが14%、ワワが22%と低く、平均3桁と揶揄される小売業界では異例の数字である。ワワの場合、1名の求人に数百人の応募があった。またQTでは、2004年度の新規採用枠284名に約1万18580人が応募してきた。

 顧客にも熱狂的なファンがいる。両社をテーマにしたブログやウェブサイトもあれこれ見られ、『ライブ・ジャーナル』誌のコミュニティ、「ウィ・ラブ・ワワ」のメンバーは700人を超える。

 しかしこれは、いわゆる「ちょっといい話」では終わらない。両社ともいつも市場平均を上回る業績を上げているからだ。1977年から2003年にかけて、ワワの株価は平均17%の年成長率で上昇した。これは、スタンダード・アンド・プアーズ(S&P)500のほぼ2倍に相当する。QTの株価は過去3年間で19.2%上昇している。実にS&Pの4倍以上の上昇率である。なお、これらの株価は独立系機関の評価による。

生きたブランドの6原則

 我々は過去2年間にわたって、全米コンビニエンス・ストア協会と共同でこの業界を徹底的に調査し、両社を対象に詳細なケース・スタディを実施した。従業員の間にブランドとその意味を浸透させ、優れた顧客サービスの文化を培ううえで共通する「6原則」を明らかにした。ワワとQTはどちらも、最低水準の賃金でも、従業員に投資すれば、素晴らしい経験価値を創造できることを証明している。