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大きな変化を乗り越えるために、私たちは支援を必要とする。特にコロナ禍で不確実な状態が続いている中では、新たな未来に移行するための強力な基盤づくりが欠かせない。そこで、発達心理学の「移行対象」を利用する方法を筆者は推奨する。移行対象には、幼児が安心感を得るために手放さない毛布のように物理的なものもあれば、いつもの習慣や行動のように抽象的なものもあるという。本稿では、移行対象の概念を説明し、リーダーがチームを支援する際に理解すべき3つの属性を論じる。


 私たちは大きな変化を経験する時、それを乗り越えるための支援を必要とする。発達心理学、特にその発展に大きな影響を与えたD. W. ウィニコットの著書では、支援の方法として「移行対象」を用いることを提唱している。

 移行対象とは、物理的なもの(幼児が安心感を得るために手放さない毛布など)であれ、抽象的なもの(ルーチンや習慣、行動など)であれ、不確実性を切り抜けるために必要な基盤となる。

 筆者の研究チームは15年以上にわたって、7カ国の100以上の組織を対象に、職場の変化に際して組織と従業員の間の重要な支えとなる移行対象について研究してきた。

 たとえば、英国に本拠地を置く同族経営の出版社の創業者(熱心な美術品収集家でもある)は、事業の売却を決めた時、感謝の印として従業員全員に自身のコレクションから美術品を選んでもらった。この寛大な行為は、何か過去のものを提供することで、従業員が未来に向かって進めるように後押しするものである。

 移行対象は、明確なものとは限らない。私たちは困難な状況を乗り越えるために、無意識にそれらを利用している場合もある。しかし、新型コロナウイルス感染症のパンデミックの中で、世界中の個人、従業員、組織がいつもとは違う大きな変化に対応しているいま、マネジャーは移行対象に注意を払うことが特に重要だ。

 いまだにひどく不確実で、境界線が曖昧なニューノーマルに職場が向かう中、リーダーは人々を支援するために移行対象を意識的に特定し、統合することができる。

 リーダーは、人々の移行プロセスに役立つ3つの重要な属性を考慮する必要がある。すなわち、選択肢、パーパスとのつながり、向かう方向への足掛かりとして新しい何かを利用することだ。この3つを理解することで、引き続き困難が予想される次の1年に、従業員に最善の支援を提供する移行対象のタイプを特定することができる。