しかし、高速道路への乗り入れを計画する際には、異なるアプローチが求められる。
まず、新たな製品・サービスの市場投入後の成果指標を、どのように集めるかを決めなくてはならない。
どのソフトウェアを使うのか。誰が責任を持ってデータを収集するのか。通常は社内のあちこちから人の助けを借りて、新アイデアが収益と利益にどう影響し、どんな状態にあるかを追跡する必要がある。
次に、新製品を生み出したイノベーションチーム、それを市場に投入する事業部のリーダー、および経営幹部の3者による一連の話し合いを設ける必要がある。
売上高、利益率、効率性といった複数の成果指標を、どのように測定し始めるのか。進入車線の長さは、どの程度にすべきか。新たな車は進入車線を上って本線に（安全に）合流する準備を、どれほど早く整えることができるのか。
イノベーションの測定指標をめぐる最善のアプローチを見出すために、当社は上場・非上場を含む大手8社のリーダーたちに定性的インタビューを実施した。
アトランタを本拠とするファストフードチェーンのチックフィレイで、イノベーション・新規事業担当のバイスプレジデントを務めるウッディ・フォークは、進入車線での走行は最大3年を要することもあると説明する。
投下資本利益率や売上高利益率といった指標は、「何十年もかけて財務業績を調整してきた成熟事業」と新規事業との間で簡単に比較するわけにはいかないという（チックフィレイは昨年、同社の人気ソースを食料品店で売り出した。また、家庭用の調理キットも試験的に販売している）。
「投下資本利益率は、当社が使う主要指標の一例です」とフォークは言う。「既存事業よりも新規事業に対してのほうが、寛容な比率が適用されます。新規事業は財務面で厳しい精査に耐えることが求められる前に、利益を出す方法を探る自由と裁量が与えられます」
新規事業に勢いがつき始めると、「収益性を追求していく過程で、より厳密な審査を適用します。通常、本当に有望な新規事業に対しては約3年間の真剣なテストを行い、将来的に大きな貢献をする可能性が実際にあるかどうか見極めます」
ウィスコンシンを本拠とする保険会社、クナ・ミューチュアル・グループのダン・カイザーはこう述べる。彼のチームは「最初はあくまで試算として、将来の財務業績を予測します」。ただし、新商品が顧客に広まるにつれ、「財務業績の重要度は次第に高まっていきます」
財務指標は「常に存在し、裏側で適用されてはいますが、それらが主要な成果指標として重視される度合いは、時とともに少しずつ高まっていくのです」と、カイザーは言う。
一方、非上場の金融サービス会社フィデリティ・インベストメンツのモナ・バーノンによれば、新アイデアのテスト段階とスケールアップとの間に「継続か、中止か」を判断する一連の指標を設けることが必須だという。このアイデアのために進入車線をつくる必要がそもそもあるかどうか、だ。
「CFOは、イノベーションはお金を飲み込む底なし穴だというような感覚を持ってはなりません」と言うバーノンは、同社でフィデリティ・ラボのインキュベーション部門を統括している。
「私の見るところ、測定可能で明確化された失敗点を決めることができていない人が多くいます。たとえば、『この9カ月間のパイロットテストが終わるまでに、3人の購入顧客を獲得できなければ、それ以上は続けない』などです。
中止を決める指標がないケースが、ほとんどであるように見受けられます。どれが有望か、そしてどれが十分に有望ではないのかについて、合意が必要です。そして有望なものについては、それに資金を出してスケールアップするために、組織全体と協力する必要があります」
ビジネスにおける多くの物事と同様、この場合の協力――およびその根底にある関係性――は、イノベーターとCFOの間に信頼が必要であるという意味だ。
重荷となる一連の財務指標が、早すぎる段階で新規事業に適用されがちなのは、「イノベーションチームの成果物をCFOが十分に信頼していないため」だと、バーノンは指摘する。だが信頼と強固な関係があれば、「早すぎず、適切な時期に、それらの指標を適用し始めることができます」。
ブレインストーミング・セッションにCFOを参加させ、心からの情熱を発揮してもらうのは無理かもしれない。あるいはイノベーションチームに対し、スプレッドシートの調整に全力を注ぐよう求めることもできないだろう。
とはいえ、信頼を確立し、「進入車線」の指標を設け、新規コンセプトの成熟に合わせてより商業的な指標の適用を増やしていくことが、双方を満足させ続けるカギとなる。それはまた、「新たなアイデアをテストし、成長させる」という組織能力を支えるうえでも重要なのだ。
HBR.org原文：Don't Let Financial Metrics Prematurely Stifle Innovation, March 31, 2021.
