常識とは異なる働き方のスケジュールを確立する
コンロッド・ロビンソンは、妻を亡くしたあと、家庭での時間を増やすために転職した。ロビンソンはこう振り返る。
「通勤時間を半分以下に減らしました。そのおかげで、子どもの放課後イベントに参加したり、家で料理したりする時間を増やすことができました。朝、息子が学校に出かけるのと同じくらいの時間に、私も家を出れば済むようになりました。それと引き換えに、給料がかなり減ったことは事実です。それでも、家で過ごせる時間を増やすという選択をしたことに満足しています」
ソロ・ペアレントが子どもと過ごす時間を増やそうとする場合、常に給料や出世を犠牲にする必要があるとは限らない。それでも夜勤やフレックスタイムでの勤務、パートタイムの働き方を選択する人がいることは事実だ。
その点、最近の企業は、働き方の柔軟性を高めることにより、社員の献身性を高められることを理解し始めている。そのおかげで、今日のソロ・ペアレントはこれまでになく、家庭のニーズを中心に据えたスケジュールを組み立てやすくなった。
ソロ・ペアレントがそのような選択をすることを通じて、新しいキャリアの道筋が切り開かれる場合もある。
「ソーシャルワーカーの仕事を辞めて、自宅で託児サービスを始めました。自宅で自分の子どもと一緒に過ごしつつ、生計を立てたいと考えたのです」と言うのは、ソロ・マザーのハイディ・クロネンバーグだ。「私は息子と娘と一緒にいられて満足していました。息子と娘も、ほかの子どもたちが家にいることがうれしかったようです」
息子と娘が2人とも小学校に上がると、クロネンバーグはソーシャルワーカーの仕事に復帰し、やがて新しい会社を立ち上げて、メンタルヘルスとカウンセリングのビジネスを始めた。「自宅で託児サービスを行っていた時の経験を通じて得たスキルは、事業を始める際にも役立ちました」と、クロネンバーグは振り返っている。
自宅で働くことは、コロナ禍でほとんどの人にとって避けて通れないものになったが、このような働き方はソロ・ペアレントが時間をやりくりする手立てになりうる。週に何日か自宅で仕事をするケースもあれば、完全にリモート勤務に切り替えるケースもあるだろう。
アトランタの「ママプレナー」(起業した母親)であるシャンテル・ウィッターは、黒人・先住民・有色人種(BIPOC: Black, Indigenous and People of Color)を主なテーマに据えた家族向け書店のオンリー・ウィズ・ラブ・ブックス、および教育関連の2つの事業を営んでいる。
ウィッターは、子どもを学校に通わせずに、自分が家で勉強を教えることにして、仕事も自宅で行うようにした。こうして起業家としてのニーズと在宅教育への思いを融合させることにより、バランスの取れた生活を送り、充実した人生を送れている。
実用的な支援ネットワークを築く
ソロ・ペアレントの創意工夫が発揮されるのは、時間の使い方や働き方の面だけではない。ソロ・ペアレントたちが賢明に支援ネットワークを築いて、仕事と家庭の両立の難しさを和らげていることに、筆者はしばしば目を見晴らされてきた。
時には、自分の子どもの力をうまく借りることもある。元ソロ・マザーのシェリル・デュメニルは、このように振り返っている。
「子どもたちが10歳前後の頃、自宅でじゃまされずに仕事に集中したい時、子どもたちにこう言っていました。互いのベビーシッター役を務めて、おとなしくしていてくれたら、一人に5ドルずつあげよう、と。この方法のよい点は、子どもたちが互いのベビーシッターとしての働きぶりを私に報告してくれることです。こんなに安価な託児サービスはほかにありません。10ドルで3~4時間、仕事に集中できるのです」
筆者の場合は週に1日、子どもたちに「料理人ごっこ」をさせて、夕食を調理させていた。子どもたちはそれを楽しんでいたし、筆者は仕事に費やす時間を数時間増やすことができた。また研究によると、ソロ・ペアレントの家庭の子どもは、単なるお手伝いにとどまらず、家事をしっかり担わなくてはならないので、レジリエンス(再起力)と自立性の面で優れているようだ。
ソロ・ペアレントにとっては、リアルとバーチャルの人的ネットワークも非常に重要だ。望ましいのは、親密な人たちとの関係を大切にすると同時に、それほどよく知らない人たちとの関係も育むことである。
親しい友人や親族は、充実した絆をもたらす。一方、そこまで深い付き合いではない知人は、親しい友人や親族からは得られない情報をもたらす。
いつも親しくしている子育て仲間たちが知っているベビーシッターや放課後プログラムは、みんな同じだったりする。それに対して、ふだんあまり緊密に付き合っていない人たちは、隣の町の新しいプログラムや、あまり知られていないプログラムなど、いつものメンバーが知らないサービスを教えてくれるかもしれない。
この点では、フェイスブックなどオンライン上の支援グループにも同じことが言える。人的ネットワークの多様性が大きければ大きいほど、手に入る情報の多様性も高まるのだ。
子育て仲間のコミュニティと人的ネットワークは、子どもの食事を用意したり、さまざまな雑用に追われたりする日々のストレスを和らげる効果もある。週に1回、料理を持ち寄ってホームパーティを開けば、その日の夕食をつくる手間が省けるだけでなく、ほかの親と絆を深めて、支え合うことができる。ほかの親と料理を交換すれば、その日の献立を考える負担からも解放される。
買い物や雑用をしたり、遊び場で子どもたちの様子を見守ったりする時に、ほかの親と一緒に行動することも有効な戦略だ。ソロ・マザーのチャヤ・ベイラはこう述べている。「雑用に行く時に付き合ってくれる友達がいれば、途中でおしゃべりができるし、店や銀行や郵便局で用事を済ませている間、自動車の中で眠っている子どもの様子を見ていてもらえます」。洋服を交換したり、互いの子どもの世話をしたり、自動車を相乗りしたりするグループをつくってもよいだろう。
パートナーの力を借りられず、仕事をしながら子どもを育てるのは、並大抵のことではない。しかし、そうしたソロ・ペアレントたちは、時間を最大限有効に活用し、家庭生活と職業生活で工夫を凝らし、有効な人的ネットワークを築いている。ユニークで創造的な問題解決策を編み出し、厳しい状況の下で最良の親であるための新しい方法を見出しているのだ。
HBR.org原文:Creative Strategies from Single Parents on Juggling Work and Family, April 08, 2021.