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スマートフォンの普及は、意思決定のスピードを飛躍的に向上させた。レストランを探すような単純な決断であれば、スマホの提案に従えば十分だろう。しかし、複雑な問題を処理する時、そうした安易な決断を下すのは好ましくない。にもかかわらず、私たちはそれをやってしまっている。その理由は、決断するスピードが速いことが、意思決定の効率性や有効性だと勘違いしているからだ。本稿では、優れた意思決定を妨げる11の誤った発想を紹介する。


 あなたは、スマートフォンのない生活を想像できるだろうか。

 想像できない人が多いだろう。私たちは、道順検索に始まり、気温のチェック、さらには1日に歩いた歩数や心拍数の記録にいたるまで、ありとあらゆることをスマートフォンに依存している。

 スマートフォンに「やあ、シリ」(Hey, Siri)などと呼びかけて情報を得たり作業をさせたりするのが当たり前の時代になり、私たちは、スピードと効率性・有効性を同一視するようになっている。

 情報処理のあり方も変わってきた。私たちの脳は、スマートフォンやコンピュータからメッセージが届くことに喜びを感じるようになっている。

 たしかに、イタリア料理を食べられるレストランを探す時は、シリやアレクサ、グーグル・アシスタントなどの音声アシスタント機能はとても便利だ。ところが、複雑な意思決定を下す時、このようなツールはそれほど役に立たない。というよりも、好ましくない。非生産的なアイデアや条件反射的な行動が助長されて、情報に基づく意思決定が妨げられかねないのだ。

 たとえば、自動車を購入する場合を考えてみよう。あなたは、トヨタのプリウスにするか、スバルのクロストレックにするかで迷っている。音声アシスタントを用いれば、あらゆる情報が手に入る。2つの車種の燃費効率もわかるし、ローンで自動車を購入する際の金利も知ることができる。

 しかし、検索エンジンは、あなたがなぜ自動車を買いたいと思ったのかまでは把握できていない。新しい自動車をどのように使うつもりでいるかも、自動車の購入費用が資産や所得に占める割合も知らない。

 本来、どの車種を購入するかという意思決定は、自分自身のニーズ、価値観、目標をはっきりと理解したうえで下さなくてはならない。だが、アルゴリズムはそうした情報を持っていないのだ。

意思決定に関する11の誤った発想

 筆者は20年以上、意思決定について研究してきた。その研究を通じて見えてきたのは、いくつもの誤った発想が根を張っているせいで、好ましい意思決定がしばしば妨げられているという実態だ。そうした発想には、以下のようなものがある。

(1)効率的に意思決定を行いたい

 効率的に意思決定を行うとは、時間をかけずにただちに結論を下すことだと思い込んでいる人が、あまりに多い。しかし、真に有効な意思決定を行うためには、自分がどのような問題を解決しようとしているのかを明確に理解する必要がある。結論を急ぎすぎると、誤った要素に基づいて判断を下し、やがて後悔するはめになりかねない。

 たとえば、自動車販売店を訪ねて、そこで最初に目にとまった自動車を買えば、効率的なように思えるかもしれない。しかし、そのような選択をすれば、あなたのニーズや予算に照らして最適な自動車ではなく、販売員がさっさと片づけてしまいたいと思っている自動車を買わされる恐れがある。

(2)忙しくて、時間をかけて検討する暇がない

 時間が足りないのであれば、意思決定を先延ばしするというのも一つの意思決定だが、そのような時こそ、あえてじっくり時間をかけるのも有効な方法だ。意図的にスピードを落とすことにより、導き出される判断の有効性が高まる。そうすれば、あとで決定を見直す必要がないので、結局は時間の節約になる。たとえば、自動車販売店を訪ねる前に、少しだけ時間をかけて価格を下調べすれば、販売店での価格交渉がうまくいくだろう。

(3)いますぐに問題を解決したい

 これは、「木を見て森を見ない」行動パターンの典型だ。問題は文脈から切り離せない。それにもかかわらず、狭い視野でものを考えれば、誤った問題を解決しようとしたり、問題の一部しか解決できなかったりしかねない。極端な話、自動車が突然故障して買い替えようとする時は、目先のニーズにしか目がいかなくなるだろう。

(4)これは自分だけの問題だ。ほかの人を関係させる必要はない

 私たちが下す重要な意思決定には、どうしてもほかの人たちの利害も関係してくる。意思決定がほかの誰に影響を及ぼすのかという全体像を見ずに判断を下せば、問題の一部しか解決できなかったり、下手をすれば問題を悪化させたりする恐れがある。

 たとえば、あなたの配偶者と子どもが手動の変速レバーを操作できない場合、マニュアル車を購入したいと本当に思うだろうか。そんな自動車を買っても、いざという時、あなた以外誰もその車を運転できない事態になりかねない。

(5)自分の判断が正しいという自信がある。いま欲しいのは、自分の判断の裏づけになるデータや意見だ

 こうした「確証バイアス」と呼ばれる落とし穴のせいで、歴史上も数々の重大な判断ミスが繰り返されてきた。ピッグズ湾事件しかり、サブプライムローン危機しかり、スペースシャトル・チャレンジャー号の爆発事故メキシコ湾原油流出事故しかりだ。いずれの場合も、思い込みを否定するデータは身近な場所にあった。そうしたデータを参照して、問題に気づくべきであった。ところが、集団思考(グループシンク)が作用して、誰も警告を発しようとしなかった。

 自分が知っていると思っていることが、すべて正しいとは限らない。その点を認識するためには、自分の考えに反する事例を探したり、異なる説明を探したりすることが有効だ。こうしたことを実践すれば、1つの枠組みだけでしかものを考えない状態に陥らずに済む。自分の見たいものしか見ないという落とし穴を避けることができるのだ。

 たとえば、新しい自動車はクロストレックにしようと決めているとしても、ほかの車種も検討してみたほうがよい。その際、クロストレックの購入に前向きになっているせいで、ほかの車種への評価が過度に厳しくなっていないか。自分のニーズに最も適合した車種を選ぶことよりも、クロストレックの購入を後押しするような情報を探していないか。

 広い視野で考えるためには、まず自分のニーズを確認すること。そのうえで、ニーズに最も合った車種を探せばよい。