藤本:ただ、そこで気をつけたいのがお客さんの「商売の流れ」を意識することです。たとえば、ある土木業者が、ある建設機械メーカーのサイバーフィジカルシステムを活用して、ブルドーザーの生産性が2倍になったとします。しかし土木業者にとって本当に嬉しいこととは、土を掘って、ダンプカーに乗せて、運んで、降ろして、地ならしして……という土木プロセス全体の付加価値の流れが良くなることです。
ダンプカーの運転手不足がボトルネックである時に、ブルドーザーの生産性だけが上がっても、土木プロセスの全体最適にはならない。そうした顧客プロセス全体の課題を解決するため、たとえばコマツはオープンなデータプラットフォーム「ランドログ」を作ったのです。
入山:建設現場の生産性を向上するために複数企業が集まって作った、IoTプラットフォームですよね。
藤本:はい。こうした取り組みで大切なのは、GAFA的なデータの1社独占ではなく、フィジカルの世界で顧客との信頼関係を築いてきた複数の会社が連携・協調しながらデファクトスタンダード(事実上の標準)を目指すことです。ここで「商売敵とは組まないぞ」などと言ってケンカを始めると、Amazonやマイクロソフトが「それならベーシックソフトは自分たちが作ってあげますよ、タダで」と上空から降ってきてしまうわけです(笑)。
日本企業が標準づくりの協調が下手なのは、ソフトウェアでも同様です。たとえば自動車の車載ソフトでは、ボッシュなどドイツのメガサプライヤーが率先して基本ソフトを作ってくれるので、それに「ただ乗り」してアプリで差別化すれば良い、と考えコンソーシアムに参集した自動車メーカーも多かったようです。
しかし、ビジネスのゲームにフリーライダーなんて、そんなに都合よくは存在しない。いつの間にか、メガサプライヤーの有償のサポート無しではアプリができないゲーム状況に引き込まれ、ただ乗りできなかったことに気が付いても後の祭り。軍師がいますよ、あちらには。
そういう意味でも、日本企業の良くないところは、競争が始まる前から、商売敵とケンカを始めてしまうところでしょうね。
入山:いさかいの間に全部持っていかれてしまう、と。とてもよくわかります。私自身、いろいろな企業と交流していますが、プラットフォーム化などのおもしろいビジネスアイデアや技術を持っている日本企業の話でも、他社との調整が入るとどうも苦戦してしまうんですよね。潜在的には互いにライバルだったりしますしね。
藤本:だから私は、「日本企業はプロレスに学べ」と言っているんです。毎年、地元の祭りにプロレス興行が来るんですが、日中に見てみると、みんなで仲良くリングの設営に励んでいる(笑)。勝負の舞台はみんなで整えて、いざ試合になると真剣に戦うわけです。日本企業が目指すべきはこのスタイルでしょう。
入山:なるほど(笑)。たしかに欧州の企業は、まさにリングの設営を一緒にやっている感じですよね。
藤本:そうなんですよ。話を戻すと、これからサイバーフィジカルの世界での「低空戦」を制するためには、ディープなローカル知識とグローバルなネットワークパワーの両方が必要です。GAFAもどこまで通用するかを探りながら「上空」から降りてきますから、こちらも「地上」から押し上げていって、「低空」のどこかの高さで協調していくことになるでしょう。より上の方に、その境界を押し上げるためには、地上の企業同士の賢い協調が必要です。