お気入りプロジェクトの認識:
他人がどうとらえているかを誤って判断する

 多くの変革がリーダーの個人的信念や興味から生じることは、秘密でも何でもない。

 そのようなプロジェクトの成功は、しばしばリーダーの出世につながる。そのこと自体は何の問題もない。ただし、リーダーが「大義のため」と誇張した高尚な話にすり替えたり、変革を起こすために払われる犠牲を軽く扱ったりしないことが前提だ。

 変革の主導者は、変革との個人的なつながりを認めることで、組織全体がコミットする妨げになるかもしれないと危惧する。実際、リーダーが個人的な犠牲を払わずに恩恵だけを求めたら、組織全体が変革にコミットすることはまずないだろう。

 しかし、困難な変革を進めるために、みずから本気で取り組んで自分の役割を果たすリーダーは、変革がその人にとってどのように、そしてなぜ個人的なものなのかを組織に巧みに知らせる(大規模な変革は出世欲の格好の隠れみのだと思っているリーダーは、その思いが組織に見抜けないだろうなどと愚かな考えを抱いてはいけない)。

 前述の企業の場合、変革の種をまいたのは、主として1年ほど前に戦略部長として入社した一人の経営幹部だった。

 彼女は、前職の金融サービス会社で、やはり商品からサービスへと事業の中心をシフトする変革を試みて、失敗した経験があった。業界は変化の渦中にあり、顧客トレンドで伸びている分野で先んじる努力を怠った会社は、情け容赦なく取り残されると彼女にはわかっていたのだ。

 会社に変革をもたらすことに成功すれば、CEOの後継者候補になれる可能性もあった。彼女は比較的最近、同社に入社したので、CEO後継の座を狙っていると思われることを恐れた。そこで、この変革に個人的な思い入れはないと強調しすぎてしまった。周囲が下した判断は、彼女がほんの腰掛けで、短期間に株価を上昇させて辞め、株式売却で儲けて他社に移るつもりだろうというものだった。

 皮肉なことに、彼女の過去の失敗談が、むしろ変革に対する彼女の個人的な思い入れを広く伝える一助となり、変革の大きな利点を明らかにした。また、(どんな役職でかは明確にせずに)同社にできるだけ長くいたいと公の場で発言することで、すぐさま信頼を勝ち取ることができた。

 一連のバーチャル・タウンホールミーティングを通じて、彼女は変革に対する情熱を語り、この組織なら成功すると信じている理由を話した。そして、新参者であるがゆえの不安と、皆に受け入れてもらいたいという思いを抱いていることを伝えた。

 自分のストーリーを認めることで、避けたいと思っていた自己本位な動機を他人が詮索するのをやめさせ、むしろ各従業員が変革の恩恵をあずかるのは自分たち自身であるという思いを、いっそう強める結果となったのである。

 大規模な変革が根付くためには、その変革が従業員ひとり一人にとって個人的なものとなる必要がある。先の経営幹部の話を基に、一連のバーチャルワークショップで、従業員はそれぞれの目的意識を変革に結びつけるよう促された。小グループに分かれ、従業員は変革によって自分の役割がどう変わり、自分の仕事が最終的に顧客や会社、自分のキャリアにどんな影響を及ぼすか、それぞれのビジョンを話す機会を得た。

 大変革に伴う困難の真っただ中にいる人も、これから大変革を始めようとしている人も、それがどれほど困難か、本稿により感じてもらえたと思う。

 予期しなかった障壁に直面し、あなたの忍耐力と楽観主義が試されるだろう。変革への旅路に向けて、自分自身と組織の準備を入念にしよう。あなた自身が変革を頓挫させる障壁になることだけは、確実に避けられる。


"How Leaders Get in the Way of Organizational Change," HBR.org, April 30, 2021.