スコープに関する勘違い:
仕事量を過少に見積もる

 端的に言えば、ほとんどのリーダーが、大変革を実際よりも簡単だと思いたがる。初めて変革を率いるリーダーの中に、「予想していたよりもはるかに難しい」と言わなかった人はいない。その返事として筆者は通常、「何に基づいて、そのような予想をしたのですか」と尋ねる。すると、相手はたいてい呆然と言葉を失う。

 組織変革はその性格上、それまでの流れを断絶する。組織全体が影響を受けるからだ。前述の金融サービス会社の場合、商品中心からサービス中心に移行するためには、営業から日々の業務に至るまで、組織のあらゆる面を変える必要があった。

 対照的に、たとえば新技術を活用したプラットフォームを導入したり、新製品を発売したりといった漸進的な変化は、組織の一部にのみ影響を及ぼす。前述の会社は多くの企業と同じ間違いを犯した。漸進的な変化を数多く積み重ねれば組織は変革できると想定したのである。

 そこで、独立したイニシアティブをいくつも組織内に立ち上げた。それぞれの取り組みに関する互いの調整は行われず、期待された結果を出すのに必要と思われるリソースは与えられず、プロジェクトリーダーに実質的なことを決定する権限はなく、協力を渋る人々にその責任を取らせることもできなかった。

 その結果、変革は加速するどころか妨げられた。関連を持たないイニシアティブだらけでシステムは目詰まりして機能しなくなり、そもそもの取り組みに誰も気をとめなくなったのだ。

 ここに、次々と打ち上げられる派手で一方通行のコミュニケーションが加わると、当然のことながら組織変革は「見かけ倒しで中身がない」結果になる。

 タウンホールミーティングで変革の潜在的利点を威勢よくアピールしようとしても、相互につながりがなく、競合し、リソース不足でリーダーシップも機能していないイニシアティブの当事者たちは、なぜリーダーたちがこれほど実態を把握していないのかと、不信に満ちた冷めた目で見るだけである。

 多角的な組織変革には、適切なスコープ(範囲)の設定とリソースの確保が必要だ。そして最も重要な点は、統合することである。あらゆるイニシアティブが他のイニシアティブとつながっていなければならない。

 前述の会社の場合、新たなサービスの利点を売り込む取り組みは、そのサービスを実際に担当する従業員の育成と同時に行う必要があった。新規サービスに関するメッセージを顧客に発信すると同時に、そのサービスを提供する従業員は必要な新しいスキルを獲得しておく必要があった。

 本社で一元化されたサービスは、地方の支店がサービスをカスタマイズする能力とうまくかみ合っている必要があった。さらに、本社がすべての能力を生産的に吸い上げていけるような順序とペースで行う必要があった。

 こうしたことがすべて必要になると事前に予想できたはずだが、変革の開始時に考慮されることはなかった。ここに挙げた努力が適切に統合されて初めて、手段と目的がうまくかみ合うようになり、ひいては真の変革がメッセージと一致する。