リモートワークで減少した「弱いつながり」

 では、リモートワークによって、実際にどのような問題が起きているのか。

 筆者(Ben Waber)がCEOを務め、ピープル・アナリティクスサービスを展開するHumanyzeは、顧客データを調査し、コロナ禍で広がったリモートワークでコミュニケーションがどう変化したのか分析を行った。

 調査では、業種を問わず、グローバルなFortune 1000の大企業を中心に、150カ国以上、数百万人の従業員から、200億以上のインタラクションを収集。つまり、メール、チャット、カレンダー、ビデオ会議ツールなどの社内コラボレーションシステムからデータを収集し、社員同士がどのようにコラボレーションを行っているか、またそれが時間の経過とともにどのように変化するかを測定した。

 この調査においてコミュニケーションの内容を分析することはないが、コミュニケーションの流れを抽出することで、時系列で企業内のネットワークやワークパターンを理解することができる。

 分析にあたって着目したのが、情報の提供者と獲得者の2者間の紐帯(つながり)だ。このつながりは、両者の近接性(親密度)やインタラクションの頻度で特徴づけられ、「弱いつながり(=知り合いの知り合い、顔見知り程度などの社会的に薄い関係性)」、「強いつながり(=職場の同僚など、社会的に密接な関係性)」の2つに大きく分類することができる。

「強いつながり」は、類似した情報や価値観を共有するため、複雑な知識や情報、暗黙知の移転を促進する効果があり、お互いのエンゲージメントレベルを高めるとされている。

「弱いつながり」は、新しい異質な情報にアクセスするための探索プロセスに効果があり、単純な知識や形式知の移転を促進することで、企業やチームでイノベーションが起こる可能性を高める。

 たとえば、弱いつながりが存在する企業の部門間では、前提となる専門知識や価値観が異なる場合でも、事業部間の知識移転が迅速に進み、結果として開発スピードが上がるため、プロジェクトの完遂期間を短くできるなどの効果につながる(Hansen, 1999)。

 また、従業員間に弱いつながりが存在する場合は、知識の獲得率(Levin&Cross, 2004)や事業機会の認識度合いに正の相関があることもわかっている(Ma+, 2011)。

 そして長年行われてきたさまざまな研究の結果、強いつながりと弱いつながりの存在は、売上げなどのアウトプットの客観的指標や、エンゲージメント調査などの主観的指標と高い相関関係があることがわかっている。

 Humanyzeが行った調査に話を戻そう。今回の調査においては、「強いつながり」を検出するために、1週間に1時間以上に相当する1対1のコミュニケーションを行っている社員のペアを、一方の「弱いつながり」では週に5~15分程度のコミュニケーションを取っている社員を探した。

 我々はこれらを「アテンション・ミニッツ」と呼んでおり、コラボレーションがいつ、どのくらい行われているかを総合的に把握するために、さまざまなコミュニケーション手段を組み合わせて算出した。すべてのデータは、個人が特定されないように、チームおよびそれ以上のレベルに集約される。

 これらのデータを分析した結果、コロナ禍でリモートワークが浸透したことによって、過去に行われてきた研究と同様に、職場における強いつながり(自分が所属するチームや仕事で協働する同僚とのやり取り)が増える一方で、弱いつながり(他チームや他部署のメンバーとのやり取り)やチーム間のコミュニケーションが大幅に減少していることがわかった。具体的には、新型コロナによるパンデミック前と比較して、コラボレーションデータで測定された強いつながりの数は16%増加し、弱いつながりの数は21%減少した。

 多くの従業員は、働く環境が大きく変化したにもかかわらず、オンラインを通じて自分のチームとやり取りをしてやるべき仕事を引き続き果たしているという意味で、リモートワークへの急速な移行に非常にうまく適応しているといえる。しかし、現在行っている仕事には直接関係のない人とのコミュニケーションが減り、ほかのチームと一緒に過ごす時間が減ることで、チーム外の情報に触れる機会が減っている。

 弱いつながりは、イノベーションや創造性を刺激し、長期的な成功につながるものであるため、これらのつながりが減少しているという事実は、組織の中長期的な健全性にとって非常に懸念すべきことだ。これは、私たちの研究だけではなく、スタンフォード大学の社会学者マーク・グラノヴェッターが1973年に『アメリカン・ジャーナル・オブ・ソシオロジー』に発表した論文“Strength of Weak ties(弱いつながりの強さ)”でも述べられていることである。