
コロナ禍で急速に広まったリモートワークを、新型コロナ収束後も維持したいと考えている企業や個人は少なくない。こうした中で今後、主流になっていくと考えられるのが、リモートワークとオフィスワークなどを組み合わせた働き方である「ハイブリッドワーク」だ。
しかしリモートワーク下では、メンバーが顔を合わせてコミュニケーションを取ることが難しく、特に企業やチームのイノベーションの起点と考えられる、ほかのチームメンバーとの「弱いつながり」が失われやすい。ハイブリッドワークを実現するには、リモートワークによって生じたこれらの課題を解決しなければならない。
そこで本稿では、リモートワークを中心にした組織体制やワークスタイルを構築しているリモートファースト企業の調査や学術研究から、ハイブリッドワーク下でも「弱いつながり」を失わない方法を示す。
ハイブリッドワークは
これから主流の働き方になる
リモートワークとオフィスワークなどを組み合わせたワークスタイルである「ハイブリッドワーク」は、これからの時代において主流になるだろう。企業、部門、チーム、そして個人が、自分のライフスタイルや仕事内容などに合わせて働く場所を選択できる――。これは非常に刺激的で、胸が躍るものではないだろうか。
その一方で、どのようにハイブリッドワークを使いこなせばよいのかという課題も生まれている。なぜなら、ハイブリッドワークとは「常時リモートワーク」と「常時オフィスワーク」の間にある幅広いワークスタイルのことを指しており、特にリモートワークにはさまざまな課題があることがコロナ禍で明らかになったためだ。
日本では、2020年4月に新型コロナウイルス感染症の蔓延により緊急事態宣言が発令されて以来、特に東京や大阪などの大都市圏の企業で、リモートワークが広く行われている。ボストン コンサルティング グループ(BCG)がズーム・ビデオ・コミュニケーションズのために行った調査によると、日本企業の46%が新型コロナの収束後もリモートワークを維持したいと考えているという。これは、インドの87%、イギリスの73%、フランスの72%、ドイツの68%、米国の65%と比べれば低い数字ではあるものの、約半数に達している点で注目すべき結果だろう。
また、「通勤時間を短縮できる」「家族と過ごす時間を増やせる」などの理由から、個人のリモートワークに対する満足度は、企業以上に高い傾向にある。昨年秋に行われたある調査では、首都圏に住む人の60%以上が、パンデミックが収束した後も自宅で仕事をしたいと答えている。
リモートワークをオフィスワークと組み合わせるハイブリッドワークにおいては、かつては当たり前だったこと、たとえば気楽な雑談の時間が失われるなど、デメリットが想定されるのも確かだ。しかし、この調査結果が示すように、無視できないほどリモートワーク、そしてハイブリッドワークに大きなメリットがあることを企業も個人も認識している。
ハイブリッドワークの導入で想定されるメリットとデメリットは、以下の通りだ。
●企業
メリット
・コスト削減(オフィス縮小、社員交通費・備品費用・光熱費等の削減)
・人材確保の柔軟性向上(リモートワークに特化すれば、オフィス所在地以外の場所に住む人材の採用が可能になり、従業員の多様性も増す)
・業務生産性の向上(不要なミーティングや顧客対応を減らし、本質的な重要業務にリソースを集中できる)
・事業継続力の向上(パンデミックや災害など不測の事態が発生しても事業が継続するための備えになる)
デメリット
・イノベーションにつながる社員同士の雑談や部署間コラボが起こりにくくなる可能性
・人脈作りや気軽な雑談の機会が減り、新入社員のオンボーディングや新任マネジャーの育成、研修機会が限定的になる
・ITシステムやネットワーク環境構築のための設備投資(Web会議システム、チャットツール、社員用PC、セキュリティ対応、それらの運用・保守費用)
●個人
メリット
・通勤にかかるストレスや時間、労力軽減・業務生産性向上(対面でのやり取りによる邪魔が入らない、体力的・精神的ストレスの軽減による集中力や業務効率の向上)
・居住地や生活圏の選択肢拡張(オフィスから遠い郊外にも居住可能に)
・子育てや介護など、個人的な用事を果たしながら仕事ができる
・仕事の機会を国や地域をまたいで広範囲に広げることができる
・柔軟で自律的に仕事を行うスキルが鍛錬される
デメリット
・上司や同僚への相談、雑談などのコミュニケーションがしにくい
・つながりの減少による孤独感や燃え尽き(バーンアウト)
・(管理職がリモートワーク社員に不慣れな場合)自身が正しく評価されず、昇進機会が限定される可能性
また、上記のようなハイブリッドワークで想定される企業と個人のメリット・デメリットを勘案すると、実際に新型コロナの感染拡大が収束したとしても、オフィスにすべての人が集まるような以前の働き方へ後戻りすることはないだろう。そこで行わなければならないのは、主にリモートワークによって起きている問題を、さまざまな方法によって解決し、うまく機能させることである。