3.受信数の多さが業績アップにつながる

 この共同研究においては、チャットの受信数が多い人ほど、業績が高いという傾向も確認された。チームの業務において周りから重要なメンバーと認められているほど、多くのメンバーが情報を共有するようになり、チャットの受信数が増える傾向にある(この分析においては、役職の影響からおのずとチャットの受信数が多くなる「リーダー」を排除したデータを使用している)。それに伴って重要な情報を受信する機会も増え、業績にプラスの影響を与えていると考えられる。

 チーム内での送受信の場合、自分からの積極的な情報発信を意識して行っているメンバーには、送信が少ないメンバーと比べ、2倍以上の受信があることが確認されている(リーダーを排除した一般のメンバーだけを含むデータを使用。リーダーの受信量が多い理由は役職の影響も考えられるため、メンバーのみのデータを分析することで、送受信の関係性をより明確に示している)。

 当然ではあるが、コミュニケーションは自ら発信することから始まる。自分から意識的に情報を発信することを通じて相手からの受信量を増やし、自分に役立つ情報を得るようになる。自ら発信を心がけることが、自身の業績向上につながっていくということだ。

 今回の研究を通じて、発信する際のコツも見えてきた。ハイブリッドワーク下では、チャットやメール経由のテキストでのやり取りが主要なコミュニケーション手段となる。対面では言わなくても伝わることでも、オンラインではテキストではっきり表現しなければ伝わらないことも増える。そのため、特にリーダーは、「なぜそれが必要なのか」「それを行うとどうなるのか」が明確に伝わるような発信を心がける必要がある。

 一方で、チームメンバーは「自分がどのように仕事を進めているか」「どんな成果や価値を出したか」を、ほかのメンバーに理解してもらえる形で明確に伝えることが大事になる。チームへの発信を通じて、自分の仕事の成果や価値を正しく認めてもらうところまで完結できる力を培う必要がある。

ハイブリッドワークの継続には
アナリティクスを活用したマネジメントが不可欠

 では、こうした研究結果と分析を踏まえて、リーダーやマネジャーはハイブリッドワーク環境下でどのような点に注意してチーム運営を行えばよいのか。メンバーが離れた場所で一緒に仕事をしていても高い業績を上げるべく、つながりの強い組織やチームを作るためのヒントをまとめとして紹介したい。 

(1)チーム全体と各メンバーのコミュニケーション量を増やす

 特定のメンバーだけが有益な情報を発信するチームでは、メンバーのパフォーマンスが低下することが多い。企業内では、誰もがほかの人に役立つ有益な情報を持っているはずだが、仕事上の情報提供源が特定のメンバーに限定されていると、情報の経路がチーム内の一部に偏り、重要な情報が十分かつ流動的に共有されない。

チェックポイント 
・チームメンバーの大多数がコミュニケーションに参加しているか。
・リーダーが一方的に話す傾向があるか。
・新入社員が躊躇なくコミュニケーションに参加できているか。

(2)チーム、部門間のつながりを増やす

 コミュニケーションを通じて仕事の目標や方法を相互に理解することで、チームの協力体制が強化される。他チームから提供される情報は、緊密な知識の共有に役立ち、新しいアイデアや視点を与え、それがパフォーマンスに影響を与える。特にチームリーダーが、ほかのチームのリーダーや上層部との関係を築くことで、チームの活動に必要な人やお金などのリソースを獲得する機会が増える。

チェックポイント
・異なるチームや部門間で活発なコミュニケーションが行われているか。
・リーダーが率先して他チームのリーダーとコミュニケーションを取っているか。
・他チームと積極的に接触しようとしているハブ人材は誰か。

              *   *   *

 今後は、ハイブリッドワークの浸透によって仕事の大半がバーチャルな環境で行われるようになる。そのため、ワークプレイス戦略がどのようなものであれ、人々や組織がパフォーマンスを向上できるようにするためにも、過労に陥る人を生み出さないためにも、ワークプレイスアナリティクスを活用する必要がある。

 ワークプレイスアナリティクスは、既存の企業システムから得られるデータにより、コラボレーションパターンを明確にし、組織内に存在するギャップを明確にする。どのようなパターンを明らかにしたうえで、何がうまくいっていて、何がうまくいっていないのかがわかり、個人やリーダーの行動改善に役立てることができるはずだ。

 遠隔での業務において、効果的なコラボレーションのパターンを維持したり、必要な習慣を身につけたりするためには、戦略なき試行錯誤や後戻りを繰り返していてはいけない。

【注】
J. Mathieu, T. Heffner, G. Goodwin, E. Salas, J. Cannon-Bowers,“The influence of shared mental models on team process and performance.” Journal of Applied Psychology, 85(2), 273-283, 2000.


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