実践的なアドバイス

 ケーススタディ(1)2人一緒にフィードバックを行うように求め、あなたの貢献が上司にはっきりわかるようにする

 デジタルマーケターのローレン・クレインは、職務を十分に果たせない同僚と一緒に働くのが、どのような経験かをよく知っている。「昔は、そうした人たちの仕事を肩代わりしていました。知識の乏しい同僚に代わってプロジェクトについて説明し、会社の面子を潰さないために行動していました」

「でも、私の行動は会社の役に立っていませんでした。私は成績の悪い同僚を助けていただけで、質の悪い社員を守る結果として、むしろ会社に害を及ぼしていたのです」

 数年前、クレインはあるプロジェクトに携わった時、ある一人の同僚と緊密に協働することになった。ここでは、その同僚を「ブライアン」と呼ぶことにしよう。ブライアンは能力が不足していて、モチベーションも乏しかった。

 有色人種の女性であるクレインは、その状況を解決しなくてはならないという切実な思いを抱いた。「仕事ができない白人男性と一緒に働くことで、私は現実を思い知らされました」と、クレインは振り返る。「(ブライアンは)肌の色と性別だけが理由で、私より知識が豊富で、信頼性があると思われていたのです」

 尻ぬぐいを続ければ、ブライアンが自分と同等の能力の持ち主だという誤った思い込みを助長してしまうと、クレインはすぐに気づいた。ブライアンの能力は、彼女の「足元にも及ばない」のが現実だった。

 もっとも、ブライアンを変えようとしても無駄だということも理解していた。クレインにできるのは、自分がその状況にどう対処するかを変えることだけだった。

 上司に不満を言うことはやめにした。「そのような行動を取れば、器が小さくて、意地が悪い人間のように見えてしまうと思ったのです」

 そうは言っても、手をこまねいていたわけではない。ほかにいくつもの対策を講じた。プロジェクトが始まる時、自分の責任領域とブライアンの責任領域を明確に区分けした。そして、どの要素を誰が担当しているのかを上司がはっきり理解できるようにした。

「誰がどの業務を担当するかを明確にして、自分の進捗状況を頻繁に、書面で上司に伝えるようにしました」と、クレインは振り返る。「自分の成果を文書に記し、自分の担当業務をしっかり完了するようにしました」

 要するに、ブライアンのパフォーマンスから自分を切り離そうとしたのだ。そして、ブライアンが成果を上げられていなくても、自分は成果を上げているのだと、上司に理解させたいと考えたのだ。

 結局、プロジェクトの完了は予定より遅れてしまった。「どうにか形にはなったけれど、もっと質の高い仕事ができたはずでした」と、クレインは言う。

 すべて終わったあと、クレインは上司に対して、自分とブライアンの2人一緒にフィードバックを行うよう願い出た。この時に上司は、何か問題が生じていることに気づいた。「私は自分のパフォーマンスに自信を持って、フィードバックに臨みました。そこで、その場ではブライアンに説明させるようにしました」

 クレインが上げた成果は、上司の目にも明らかだった。そして、ブライアンのお粗末な仕事ぶりも明白になった。

 その後もクレインは同じ会社で働き続け、ブライアンとの接し方にも慣れていった。ブライアンは「仕事のできない社員として部門内で知られるようになり、誰も一緒に働きたがらなくなりました」と、クレインは言う。「やがて、会社を辞めていきました」

 以前の自分と同じような状況にある人たちに対して、クレインは次のような助言を送る。「仕事のできない同僚に足を引っ張られないように気をつけましょう。油断をすると、つけこまれます。堂々と振る舞いましょう。自分の成果を印象づけることが大切です」