ケーススタディ(2)役割と責任を明確化して、説明責任を強化する

 作業療法士兼コンサルタントのラファエル・サラザールも、成績の悪い同僚と一緒に働いた経験の持ち主だ。

 以前、ある退役軍人病院で新しい取り組みを立ち上げるプロジェクトに携わった時のことだ。「私たちのチームに課された役割は、新しい取り組みを院内でPRし、研修用の素材をつくり、職員による実践率を高めるための戦略を徹底することでした」と、サラザールは言う。「ところが、プロジェクトの期間全体を通じて、ほとんど仕事をしようとしないメンバーが2人いました」

 1人は――「サム」と呼ぶことにしよう――特に問題だった。メールを送ってもなしのつぶてで、業務の締め切りも守らない。会議に顔を出さないこともしばしばあった。サラザールはいら立ちを強めた。「私やほかのメンバーが尻ぬぐいをする羽目になることが、たびたびありました。私たちが仕事を片づける以外になかったのです」

 サラザールとしては、サムのせいでプロジェクトが失敗することは避けたかった。また、自分の評判を守ることの重要性も理解していた。

 そこで、いくつもの対策を実行した。たとえば、サムとのやり取りのすべてを記録に残した。「必要に応じて、チームのほかのメンバーや、そのほかの利害関係者にもccでメールを送るようにしました」と、サラザールは振り返る。

 これにより、サラザールが勤勉に仕事に打ち込み、成果も上げていることがはっきりした。また、サムの失敗も明白になった。

 加えて、一人ひとりの役割を明確化し、プロジェクトの個々の要素に関する要求事項をはっきりさせた。「それぞれのメンバーがどのような役割を担うかを文書に記しました。業務の締め切りと報告時期も明示しました」と、サラザールは言う。「これで誰が責任者かについて疑問が生じた時、最新のメールを確認すればすぐにわかるようになりました」

 その結果、状況が改善し、プロジェクトは成功裏に終わった。「コミュニケーションを増やしたことで、一人ひとりの役割と責任が明確になりました」と、サラザールは語る。「説明責任がはっきりし、周囲からのプレッシャーも強まり、誰もが仕事に本腰で取り組むようにもなりました」

 サラザールは現在、ジョージア州オーガスタに本社を置くリハブ・U・プラクティス・ソリューションズという会社の社長を務めている。医療関連の教育とコンサルティングを行う会社だ。サムとの経験を通じて学んだことは多いと、サラザールは語る。

「このような経験をした時は、対人関係とリーダーシップのスキルを磨く機会だと考えるべきです」と、サラザールは言う。

「プロジェクトを成功させるためには、成績の悪いメンバーに特別の指導を行ったり、わかりやすく説明したり、モチベーションを持たせたりしなくてはならない場合もあるでしょう。そうしたリーダーシップを発揮したり、その手助けをしたりすることは、必ずしもチームのリーダーやプロジェクトマネジャーでなくてもできるのです」


"When You're Stuck Working with a Slacker," HBR.org, May 14, 2021.