世界が不平等について議論を交わし、ステークホルダー資本主義を推し進めている中、IASはもう何百年も平等な社会を維持してきた。IASという制度のおかげで、イボ族の共同体はナイジェリアでも比較的安定したコミュニティとなっている。

 ナイジェリアの平均識字率は62%だが、IASを持つほとんどの州では識字率が90%を超えている。加えて、IASは誰もが機会や支援を得られるようにできている。そうすることで、コミュニティ内で極端な貧困や不平等が生じるのを防いでいるのだ。つまり、おおかた平等なコミュニティが教育水準を高め、安定した社会を築いてきたといえる。

 純粋な株主中心資本主義の視点に立つと、IASは欠陥のある制度に見えるかもしれない。しかし、IASにおける株主とはコミュニティ全体であること、ほぼすべてのイボ族のコミュニティがこのモデルを通して共有の富を築いてきたことを知れば、その印象は変わるだろう。

 1970年にビアフラ戦争が終結した際、イボ族は資産の大部分を凍結され、戦後の生活を始めるにも手元にはほぼ何も残っていなかった。そこで、多くのイボ族のコミュニティは互いに手を組んで学校や診療所をつくり、長老は仲間を助けるために機会を分かち合うよう成人男性を促した。長きにわたり、その精神が持続的な経済的繁栄という結果を残してきた。

 とはいうものの、マスターの虐待から弟子になる若者たちを保護するなど、イボ徒弟制度には改善の余地があることも、多くの人々が気づいている

 コミュニティの長老の導きで交わされた契約を地方自治体に登録し、行政当局が不正に対して措置を講じるようにできれば、合意した徒弟期間が終了すれば、若者は契約通りに独立できるようになるだろう。

 しかし、プロセスを契約書という書式にして行政を巻き込むのは、若者の独立を支援したというプライドを育む自然の均衡を歪ませることになるのを、多くの人々が認識している。

 世界がイボ徒弟制度から学べることは数多く、現代の資本主義体制に新たな変化をもたらすことができるだろう。

 IASは、業界に新たなプレーヤーが参入できるように促すことで競争を改善し、顧客はその恩恵を得る。価値創造に関する新たな考え方をもたらし、その影響は金銭面を超えて、コミュニティや家族の維持にまで及ぶ。さらに、あらゆる人々のために富を創出する。

 基本的に、イボ徒弟制度は「人間性の哲学」、すなわち、すべての人々を結びつける「共有」という普遍的なつながりに対する信念を実践したものである。これは、欧米のビジネスと経済の枠組みを基準にした場合には高く評価されないかもしれないが、イボ族や一部のアフリカ人にとって非常に優れた制度である。

 そこには、コミュニティに平等と平穏な共生がもたらされ、取り残される人々をつくらない仕組みがある。これらは、ステークホルダー資本主義の実証された理想像といえるだろう。


"A Nigerian Model for Stakeholder Capitalism," HBR.org, May 19, 2021.