1. 素早いスタートを切る

 あなたがいまの職場に初めて出勤した日を思い出してほしい。前の晩はよく眠れなかったのではないだろうか。期待と疑念と不安で頭が一杯だったことだろう。

 バーチャルという不透明な環境で新しい職場で働き始める場合は、こうした問題にいっそう拍車がかかる可能性がある。オフィスの廊下で同僚と雑談したり、新しい上司や同僚から昼食に誘ってもらったりするなど、数少ない憩いの経験はリモートワークでは得られない。

 また、いま新しい職場で働き始める社員は、おそらく全面的なバーチャル・オンボーディングを経験したことがない。リモートワークを導入していた会社もたいてい、コロナ以前は対面式でオンボーディングを行っていたからだ。

 こうした点に配慮して、さまざまな戦略を実行し、勤務開始日の緊張を和らげ、新しい社員が新しい職場で歓迎されていると感じられるようにし、最初から自信を持てるようにする必要がある。具体的には、以下のような戦略が有効だろう。

 ●オンボーディング担当を指名し、その人に頼ればよいと新入社員に伝える

 オフィス勤務の場合でも、新しい社員の非公式なメンター役を決めて、支援させることが賢明だ。リモート勤務の場合、その重要性はいっそう高まる。バーチャル環境では、身近な場所に同僚がいないので、疑問が生じてもその都度、周りの人に尋ねるわけにいかないからだ。

 ただし、その非公式なメンターの役割を新入社員の上司に任せてはならない。大きな問題も小さな問題も質問しやすい雰囲気をつくるためには、この点に留意する必要がある。

 新しい職場で働き始めたばかりの人は、質問したいことが山ほどあって当然だ。新入社員が誰に質問すべきか頭を悩ますような状況は避けなくてはならない。理想は、オンボーディング担当が勤務開始日より前に新しい社員と連絡を取り、何かあれば自分に尋ねてほしいと伝えることだ。

 ●勤務開始日より前に会社とのつながりをつくる

 ある人物が会社に加わることが決まったら、なるべく早い段階で自社の「ファミリー」の一員になったことを実感してもらおう。生活用品をグローバルに展開するレキットは、勤務開始日より前に新入社員の自宅に小包を送る。その中には自社製品がたくさん入っていて、それぞれの製品と会社のミッションの関係を説明した心温まるメモも同封されている。

 ●勤務開始日より前にテクノロジー面の準備を整えておく

 勤務開始日より前に、新入社員一人ひとりがIT部門のスタッフと面談し、ビデオ会議システムやコミュニケーション・チャネルなどのITシステムについて説明を受けられるようにしよう。そうすれば、勤務開始日の不安を軽減できるかもしれない。これにより、テクノロジー面の問題を最小限に抑えて、新しい社員が初日から仕事に全力投球し、居心地よく感じられるようになる。

 新入社員の自宅に、新しいノートPCやスマートフォンを前もって送付している会社もある(もちろん、自社での用途やセキュリティ上のルールに合わせて設定も済ませておく)。こうすることで、新入社員は新しい職場との結びつきを感じ、不安が和らぐ。

2. 職場での強固な人間関係の土台を築く

 バーチャル環境では、オフィスの廊下や昼食の機会、職場のイベントなどで自然発生的に人間関係が築かれることを期待しづらい。そこで、新しい社員と既存の社員が1対1で交流する公式・非公式の機会を意識的に設けたほうがよい。また、さまざまなグループでの話し合いの機会をつくり、新しい社員が人間関係を理解するのを助けることも必要だ。

 もう一つ重要なことがある。バーチャル勤務について回るリスクの一つは、リーダーやメンバーが単独で行動したり、いつも同じ仲間とばかり一緒に行動したりしがちなことだ。そのため核を成す強固な人的ネットワークと、もっと広く浅い人的ネットワークの両方を築くよう促して、この落とし穴を回避させたほうがよい。そうすることにより、長い目で見た場合、その人物が成功する確率を高められる。

 さまざまな公式・非公式の機会を用意し、新しい社員がコミュニティを育み、ほかの人たちとの接点を持てるようにすべきだ。

 ●強固な1対1の関係を築く

 バーチャル環境では、オフィス勤務の場合と異なり、職場での雑談などによる人間関係づくりの機会が自然発生的に生まれることが期待できない。新入社員とチームメートが、公式の会議と非公式の交流の両方を行うよう促そう。

 まず、職場のルールや一人ひとりのメンバーの担当、ビジネス上の目標などを理解させるために、公式な会議を行う。加えて、コーヒーや昼食の時間に非公式な交流をしたり、最近の会議の内容を説明する機会をつくったりするとよい。

 バーチャル面接と同様、バーチャル・オンボーディングの利点は、スケジュール調整が比較的容易なことだ。この種の会議や交流の機会を設けることは難しくないだろう。

 ●チーム内の力学を理解させ、広く浅い人的ネットワークを築かせる

 研究によると、強固な人的ネットワークを持つよりも、広く浅い人的ネットワークを持つほうが有効だ。高い地位に就いている人ほど、この点が当てはまる。特に新しいリーダーが組織に加わる場合は、その人物が意識的に幅広い人的ネットワークを築くのを助けるべきだ。

 既存の社員との1対1の話し合いは、その職場での人的ネットワークの土台となる人間関係や信頼関係、親密な関係を築くための強力な手段になりうる。一方、新しい社員が初日からグループでの話し合いに参加することを通じて、その職場での仕事のやり方になじむことができる。

 一部の企業は、新しい社員のために「シャドウ・ウィーク」という期間を設けている。この1週間、新しい社員は(その人物の役職との結びつきが弱そうに見えるものも含めて)さまざまなチームの会合やステークホルダーとの会合に出席することになっている。