次点が最善である場合
最も成功した人たちが優れたロールモデルにならない場合、マネジャーは誰を仰ぎ見ればいいだろうか。筆者が研究したところによると、次点がよい選択肢となりそうだ。
音楽業界を見てみよう。音楽レーベルは、現在トップ20に入っているヒット曲を持つミュージシャンと、ただちに契約を結ぶべきだろうか。1980年から2008年までの米国のビルボードチャートでトップ100に入ったミュージシャン8297組を対象にした筆者の分析によると、答えはノーだ。音楽レーベルの経営陣はトップ20ではなく22位から30位までにランクインした経験のあるミュージシャン、つまり音楽チャートで「次点」に当たるミュージシャンとの契約を追求すべきだ。
典型的な例として挙げられるのは、韓国のアーティストPSY(サイ)による「江南スタイル」である。同曲のミュージックビデオは、誰も予想できなかった勢いで、インターネット上で急速に拡散した。
そのような結果を引き出すうえでは例外的な幸運を要する。そのためPSYの成功は持続しない。事実、チャートのトップ20に入ったアーティストは次のシングルでは平均して40位から45位になる可能性が高く、トップ20に入れなかったアーティストよりもかなり高い頻度で平均値へと後退している。
一方、チャートの22位から30位の間に入ったアーティストに関しては、次のシングルが最も高いランキングに位置することが予想された。実績が例外的によいわけではないことから、その成功が運に頼っていないことがわかり、そのアーティストの芸術的価値や将来の実績を判断する際、いまの実績がより信頼できる材料になっている。
あなたが自分の直感に従ってスターを追いかけ、価値に見合う以上の大金を支払ったとしたら、それはまさに運に対するバイアスを抱いている証拠だ。そのような行為は、ビーンのように洞察力ある反主流論者にチャンスをもたらし、あなたの企業にダメージを与え、業界を破壊することになるだろう。
グリットは過大評価されている
筆者が研究結果を示すと、腹を立てるGMが何人かいた。成功は大変な努力、強いモチベーション、あるいは「グリット」(やり抜く力)の結果であり、運ではないのだから、最も成功した者は最高の報酬や称賛を受けるべきだと球団経営陣は考えている。超優秀になるための魔法の数字、1万時間の法則があることを示唆した人さえいた。
多くのプロフェッショナルは確かに、忍耐強く計画的に練習することを通して高い能力を身につける。しかし、このようなプロたちを詳細に分析してみると、みずからのコントロールが及ばない何らかの状況的要因が重要な役割を果たしていることが頻繁にある。
イングランド郊外にある小さな町の同じ通りに住んでいた、卓球のチャンピオン3人について考えてみよう。有名な卓球コーチのピーター・チャーターズが、その郊外で引退生活を送っていたのは偶然の一致ではない。引退したコーチと同じ通りに住む大勢の子どもたちがこのスポーツに惹かれたのは彼がいたからであり、3人は「1万時間の法則」に従った後、優秀な成績を上げ、チャンピオンになったのである。
3人の努力は、もちろん成功のために必要だった。しかし、幼い頃の偶然の出会いがなかったとしたら、十分なフィードバックを得ることもなく1万時間の練習をしただけだったとしたら、ランダムに選ばれた子どもがチャンピオンになる可能性は低いだろう。才能のある子どもが幼い頃の不運に苦しみ、潜在能力を発揮する機会に恵まれなかった場合も、同じように偶然に左右されている。
そこそこの成績の場合、成功に対する私たちの直感は正しいことが多い。
「一生懸命働けば働くほど、幸運に恵まれる」「幸運は用意された心のみに宿る」というような世間一般に受け入れられている通念は、悪い成績から優れた成績に変わった人について話している場合は、完璧に理にかなっている。しかし、優良から超優良になるのは別の話だ。適切な時に適切な場所にいることはとても重要で、優秀さやグリットを上回る力を持っている。
問題は、成功を収めた経営者が、必要以上に過去の実体験に基づく推定をする傾向があることだ。筆者の研究結果を不快に思った球団GMが言っていたことは、おそらく正しい。そこそこの成功を収めるには、大きな努力やグリットのほうが、運よりも重要な役割を果たす可能性が高い。
しかし、この2つの要因のおかげで「優良」から「超優良」になれる可能性は低い。運が果たす役割の大きさを認めないと、みずからすべてをコントロールできるという錯覚を起こし、自信過剰になる。いずれも、無数の企業をダメにした2つの危険なバイアスだ。
ビジネス教育で
運の役割に関するバイアスをなくす
マネジメントにまつわる研究と教育は、「優良」から「超優良」に変わる方法に関する規範的な理論にたびたび目を向けるが、これには問題が多い。ビジネスの世界では、幸運抜きに「超優良」になれることはそうそうないからだ。
ビジネスの教育者である我々は、経営者が犯す間違いを減らすために、すなわち「不合格から合格ラインに達するように」手助けすることはできるが、並外れて成功する方法として教えられることは少ないと自覚すべきである。
問題の一部は、我々のDNAが最も成功した人々を模倣するようにできていることだ。しかし、現代社会で最も成功した人々が確固たるベンチマークにはならないにもかかわらず、その事実を見逃すと、私たちは彼らの成功を称賛し続け、実力とは関係ない不公平さを加速させ、不正を招くようになる。
それを考えると、同じような成功を期待して人生の成功者をただ模倣しても仕方ないことがわかる。しかし、勝者になったら模倣すべき行動もある。慈善事業のために、自分の富と成功を使う人々の例だ。自分が幸運に恵まれたことを十分に理解して、何もかもを我がものにしようとしない勝者こそ、心から尊敬するに値する。