●自分の能力不足を露呈させたくない

 従業員は、自分の手に負えない状況に陥って、どうすればよいのかわからなくなることがある。自分を実際より有能に見せようとしたり、能力不足で成功していないことを隠そうとしたりするのは、多くの場合、成功していない理由や状況を解決する方法がわからないからだ。

 嘘をついていることを指摘するだけでは不十分だ。根本的な能力不足は変わらず、負の結果がそれを露呈してしまうからだ。従業員が窮地に陥らないように、失敗するリスクを低減させる構造的な変化を実行できないか、考えてみよう。彼らが嘘をつく必要性がなくなるか、減るかもしれない。

 たとえば、情報や結果を報告する時期を変更して、その人が正しい態度を取れるようにしたり、研修やコーチングを提供して、真実を曲げなくても効果的に目標を達成できるようにしたりすることもできる。

 あるNPOのシニアディレクターは、複数のプログラムやイベントのスケジュールや広報活動に影響を与えるミスや不手際を起こしたが、非難されないように、ミスを隠して同僚に嘘をついた。彼は仕事の他の面では非常に優秀だったため、経営陣は彼の責務を見直し、イベント告知の責任者をやめさせたところ、嘘が大幅に減少した。

 ●自分の目的を果たそうとする

 最後に、キャリアアップなどの個人的な目標は、誠実に優れた仕事を実行することでは達成できないと考える従業員もいる。

 こうした従業員は、他のチームメンバーをそれとなく、あるいはあからさまに貶める形で嘘をつくことが多いため、対処がさらに難しい。嘘を指摘すると、自分が望む結果を得るために「よりうまく嘘をつく」よう促す恐れがあり、リーダーは他のチームメンバーの評判に傷がつかないようにする責任を負うことになる。

 あるクライアント企業の上級管理職は、受動的な発言や遠回しの表現をしたり、心理的に欺いたりして、一部のチームメイトに関して事実と異なるネガティブな情報を伝えていた。その結果、同僚たちは彼女との協働を避けるようになり、いくつかの取り組みが前に進まなくなった。

 彼女は自分に協力しない人々を非難し、真実を覆い隠し続けた。こうした状況では、嘘をつかなくてはならないという考えを抑止する構造的な変化は望めない。

 筆者は彼女の上司に、次のように告げて、不適切な行動とその結果について明確な線引きをするよう指導した。「あなたが同僚の評判を落とすことは許されません。私はあなたの懸念を把握したいのですが、もし人を陥れるようなことを続けるなら、たとえ仕事の他の面で優れていても、あなたを信頼することはできないということを理解してください」

 嘘をついた従業員の行動とあなたのフィードバックを必ず記録し、少なくとも非公開の記録を残しておこう。繰り返し嘘をつく従業員の場合、それはその人に根付いた習慣であり、やめることは難しいかもしれない。一時的にやめたとしても、再びプレッシャーにさらされると、その対処法として再び嘘をつくようになるだろう。

 そうした状況下で、不正確な情報が原因で誤った意思決定につながったり、人間関係が壊れたりした場合は、その人を辞めさせなければならない。さらに、他のチームメンバーに、あなたが嘘をつく文化を容認していると思われてはいけない。そうなれば争いが増え、業務に支障をきたし、離職率が高まる。

 しかし、小さな嘘を素早く見つけて正し、適切な行動規範を示したり、報酬やプロセスを立て直したりすることができれば、嘘をつく人に対して早い段階で指導や教育を行い、行動を改善させることができるかもしれない。それによって従業員間の関係は修復され、あなたがチーム全員の安全と生産性を維持することができるだとチームに示すことができる。


"Why People Lie at Work - and What to Do About It," HBR.org, June 24, 2021.