●完璧主義を捨て、思いやりを持つ

 最高の結果を出す意欲に満ちた、多くの優秀なリーダーにとって、コロナ禍は「本当に『よい』といえるのは何か」という問いへの答えを見つけるための集中講義だった。

 あるリーダーは「よい日もあれば、そうでない日もありました。すべてのミーティングに参加し、子どもたちに学校の勉強をさせて、庭の芝生を手入れできた大成功の日もあれば、ベッドから起き出せただけで偉いと思える日もあったのです」と、シャンに語った。

 最高の結果を出すことに慣れてきたリーダーにとって、達成可能な妥当レベルを基準にしても構わないのだと学ぶことは、大きな変化だった。このリーダーは、次のようにも語っていた。

「自分に要求する基準を下げたわけではありません。いまも金メダルを手に入れたいと思っています。でもいまは、金メダルを取るまでの過程で、考慮すべきトレードオフがあることを理解しています。
 子どもたちが、私が思っていたよりも多くの助けを必要としている時もありました。私自身、疲れ果てて、1時間のズーム会議の間、画面を眺めていただけで、何を議論したのか覚えていないこともありました。
 でもいまは、チームメンバー全員の人生について、もっと共感できるようになり、自分がみずからに課した基準を達成できなかった時も、自分に対して思いやりを持てるようになりました」

 明らかなのは、このリーダーが自分の限界を新たな視点で考えることを学んだ点だ。あなたが完璧主義者で、それが最大限の能力を発揮する原動力になっているなら、次のように自問してみよう。「自分はなぜ、限界を超えてやろうとしているのか。なぜ自分の限界を押し広げることで、より大きな成功を収めようとしているのか」

 仕事と家庭の境界線の一部が取り除かれたことで、私たちの多くは、自分には何ができて、何ができないかを正直に見つめざるをえなくなった。

 あなたがもっと共感的なリーダーになり、自分自身にも部下にも正直に限界を認めたうえで、「ベストを尽くせばよい」という許可を与えたら、部下にどれだけの影響を与えられるか考えてほしい。私たちは親として、自分の子どもに「自分のベストを尽くすように」と言う。リーダーとしも、自分自身と部下に対して、同じだけの寛大さを与えているだろうか。

 もちろん、誰かがベストを尽くしていなくても、無視して構わないと言っているのではない。人を育てるには、正直なフィードバックが必要だ。しかし、「ベスト」が幅広い環境の中で解釈されるべき時もある。そして「ベスト」が、私たちにとっても部下にとっても、「完璧」を意味することはめったにない。この事実を受け入れることは、どれほど解放的なことだろうか。

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 出社勤務再開に向けて準備を進める中、激動の1年半を振り返り、自問してみよう。「自分は、予想外の学びをどれだけ積み上げたのだろうか。あるいは、予想外に上手にできるようになったことは何だろうか。自分が得た教訓を、どうすれば部下の利益に活かせるだろうか」

 コロナ禍の苦労を繰り返したい人はいない。しかしそれは、忘れ去るべきではない貴重なリーダーシップの教訓をもたらした。

 出社勤務再開後、初めての対面によるチームミーティングを、次のように始めてみるのはどうだろう。「私自身のリーダーシップと、コロナ禍で学んだ教訓について考えてみました。これから、私が学んだことと、それに基づいてよりよいリーダーになる方法について話そうと思います」。部下がこれまでになく熱心に耳を傾けてくれるのは、間違いない。


"What Pandemic Parenting Can Teach Us About Leadership," HBR.org, June 25, 2021.