●バイアスの影響を率直に認める
専門職が置かれている現状を、まず率直に認めよう。男性にはリーダーシップと自信に関するロールモデルが大勢いるが、有色人種の女性にはあまりいない。
男性のリーダーシップには、短気な人(マイクロソフト元CEOのスティーブ・バルマー)や物腰の柔らかい人(グーグル/アルファべットのサンダー・ピチャイCEO)、スーツを着こなす人(エマニュエル・マクロン仏大統領)やパーカーとジーンズの人(フェイスブックのマーク・ザッカーバーグCEO)など、多様なパターンがある。つまり、男性が職場にどのような姿で現れ、どのように見られるかについて、私たちの許容範囲はかなり広い。
一方で、過小評価されているアイデンティティを持つリーダーは、常に厳しいバイアスにさらされ、自己表現やリーダーシップスタイルを戦略的に示している。差別やバイアスは、リーダーはどのように見えるべきか、どのように思われるべきか、どのように振る舞うべきかという私たちの期待を形づくり、「プロフェッショナリズム」のように表向きは中立的な言葉にも、目に見えない影響を与えている。
「エグゼクティブのプレゼンスとは何か。米国の歴代大統領46人のうち46人が男性でストレート、45人が白人という状況で、私たちは『大統領』という言葉に何を思い浮かべるだろうか」と、ハーバード・ケネディスクールでウィメン・アンド・パブリック・ポリシー・プログラムのリサーチフェローを務める、シリ・チラジは問いかける。
「リーダーと言えば男性である」とされてきた歴史が、女性は自信の欠如や迷いを見せたとしても有能なリーダーになりうることを、私たちが受け入れる壁になってきた。リーダーシップの定義と、リーダーを表現する際に使う語彙を、広げなければならないのだ。
「プロフェッショナリズムにおけるヨーロッパ中心主義のモデルは、すべての人にとって檻のようなものだが、黒人女性には最も厳しい制約になっている」と、バブソン大学でマネジメント論を担当する准教授であり、オピー・コンサルティング・グループ創業者のティナ・オピー博士は言う。持って生まれた髪のままで仕事をしているオピーは、同僚のバイアスに直面してきた。
筆者(ジョディ=アン)は専門職として働く有色人種の女性を対象に、人種的なマイクロアグレッションを乗り越えるためのウェビナーを開催している。その参加者が最も多く経験しているマイクロアグレッションは、髪を触られたり、髪についてコメントされたりすることだ。
髪は、米国では人種の違いを示す主な特徴であり、多くの州で職場の差別を認定する法的根拠とされている。「クラウン法」[編注]は、まさにこの問題に取り組むものだ。
こうした基準を決める枠組みがすでに、女性、特に有色人種の女性にとって不公平なものであり、自信の欠如や相互不信を助長しやすい。その現実を、過小評価されているアイデンティティを持つ部下のマネジャーは、時間をかけて理解しなければならない。自分とは異なる人々が直面する固有の課題を理解することが、管理職の能力を十分に成長させる。自分と同じような従業員しか管理できないなら、有能とは言えない。
マネジャー自身が過小評価されるアイデンティティを持つ場合は、「新たなリーダーシップの役割を担うたびに、同僚や仲間と言える人が減っていく。しかも、自分しかいないという状況が、孤立をさらに深める」と、トーマス博士は言う。
自分の役に立ったことに関してチームメンバーに助言する際は、「現状を維持することに対する報酬として、リーダーシップの立場を与えられる場合もあることを忘れてはならない」と、トーマス博士は続ける。
すべてのマネジャーは、チームのメンバーと社会的アイデンティティを共有している人たちも含めて、バイアスを伴う意思決定やコミュニケーションを排除し、それらの問題に対処する手助けをする。バイアスは「誰かがやっていること」ではない。こうした枠組みを理解することで、マネジャーが自分自身のバイアスとも向き合えるようになる。