●職場で有色人種の女性に対するバイアスを減らす

 筆者らは、大学院で学位を取得して下級職に就いた頃は、自分の考えを自由に述べて、魅了的な仕事に率先して手を挙げ、野心を率直に表現していた。しかし、反対や抵抗に遭うことが増え、特に白人の同僚から批判されると、私たちの振る舞いは徐々に変化した。

 ルチカは控えめになり、会議での発言も減って、野心を抑えるようになった。ジョディ=アンは分野や業界を超えて助けを求めたが、ほとんど役に立たなかった。しかし、起業する有色人種の女性が急速に増える中、みずからも起業家として活動を始めた。

 アメリカン・エキスプレスの「女性が経営する企業の現状 2019年版」によると、有色人種の女性は米国の女性総人口のわずか39%ながら、女性が経営する企業の1日あたりの純増数のうち、89%を有色人種が占めている。資金調達に関して有色人種の女性はさまざまな格差を経験するが、彼女たちの多くはリスクと引き換えでも、有害で偏った職場文化から抜け出したいと考える。

 筆者らの経験は、研究結果とも一致する。チラジはある大手多国籍企業で1年間、調査を行い、最上級の幹部からも話を聞いた。「私たちが調査した男女は非常に優れた能力を持つにもかかわらず、女性は判で押したように、男性よりはるかに悪い経験をしたと語り、組織全体の公平性に対する評価も低かった」

 その原因の多くは、「じわじわと破滅に向かう」現象にある。女性は「あまり攻撃的になるな、しかし意見を言うべき時はひるむな。あまり自己主張をするな、自分がリーダーであることは誇示しても他人を圧倒してはいけない」という具合に矛盾するフィードバックを聞かされてきたと、チラジは言う。「そして昇進しながら、自分より下の立場の男性が自分より稼ぐのを見ているうちに、女性はある時点で、このような問題と自分が戦う必要はないと判断する」

 チラジが調査した組織では、高いポテンシャルを持つ多くの女性が組織を去り始めていた。野心や経験が足りないからではなく、バイアスの経験が積もり積もって彼女たちを消耗させ、ついに「我慢の限界を超える」出来事が起こるのだ。

「自分の経験が自分をつくる」と語るのは、組織デザイナーでコクリエイト・ワーク創業者のラキタ・ウィリアムスだ。彼女はスタートアップの創業者たちと仕事をしながら、女性は人種を問わず、「より充実感を得られて、より自分らしく感じられることを優先する組織づくりをする」ことに気づいた。その結果、「人々が自分の経験や才能、経歴、仕事上のコミュニケーションを最大限に発揮できるような、さまざまなシステムを構築している」。

 自分のリーダーシップが歓迎されていないというメッセージを受け取れば、有色人種の女性が雇用主と距離を置き、あるいは去っていくのも無理はない。

 職場で女性に対するバイアスを減らすには、対人関係を含むあらゆるレベルで行動を起こさなければならない。自分の能力と成功の可能性を強く信じることによって自己不信を克服できるように、上司はどのようにサポートできるか、筆者らはさまざまな女性から話を聞いてきた。

「あなたならこの大きなプロジェクトを率いることができる。私はあなたのこれまでの成功を知っているし、あなたを信じている」というメッセージや、上司としてサポートすると明確に伝えることも効果的だ。そして、女性たちが経験しているジェンダーや人種のバイアスについて真摯に話を聞き、それを解決するのは組織の責任であるという見解を示すことが、上司からの最高のサポートになる。

 マネジャーはさらに、自分のチームのメンバーを周囲がどのように認識するかを変えるように、促すこともできる。たとえば、あなたのメンバーが会議で反抗的なアプローチをしたと同僚から注意されたら、こんなふうに言ってメンバーの社交性の価値を強調することもできる。

「反抗的? 私はそういう言葉は使わないけれど、彼女をチームに迎えることができて本当によかったと思っている。彼女は私たちの仕事について深く考え、新しい洞察や視点を提供してくれるから、いつも頼りになる」