●この1年間に対する理解の仕方をリフレーミングする
率直に言えば、この1年は多くの人々にとって大変な年ではあったが、パンデミックのトラウマも人種的不平等にまつわる負の遺産も、そして米国を二分した大統領選挙も、誰もがその影響を等しく被ったわけではない。
この1年間を「何もなかった」ととらえるのは簡単だ。「人生で最も生産性の高い1年を過ごした」という人はいないだろう。しかし、その考え方は妥当とはいえない。
「期待値を下げた」と考えるよりも、自分自身と自分のチームが達成できたことに目を向けるべきだと提唱するのは、ハーバード・ビジネス・スクール教授で『ハーバード流ボス養成講座』の共著者でもあるリンダ・ヒルだ。実際、必ずしも容易ではない状況下で、おそらく多くのことが成し遂げられたはずだ。
加えて、この期間の部下への接し方を「寛容に対応した」ととらえるのではなく、「柔軟に対応し、それは適切な行為だった」と考えるべきだと、ヒルは指摘する。
●部下のモチベーションを高める方法をリフレーミングする
部下のモチベーションを高める方法についても、いま一度、自分の思い込みを見直す必要があるかもしれない。
もしコンパッションとアカウンタビリティをコインの表裏だと考えているなら、それは間違っていると、ダットンは語る。部下が成果を上げるためには、厳しく接する必要があると思っているマネジャーが多いが、そのことが研究で立証されているわけではない。
事実、仕事で従業員にストレスを与えると、「脅威硬直性効果」と呼ばれる結果を招きかねない。人は脅威を感じると、すでにやり方を知っていることだけに目を向け、クリエイティブにもイノベーティブにもなれない。
プレッシャーをかけると、短期的には「労働力を絞り出す」ことができるかもしれないが、長期的には逆効果になると、ダットンは指摘する。換言すれば、厳しく接することが奏効するのは稀である。相手がすでに何らかの苦難を感じている場合には、なおさらだ。
「あなたが部下の生活にストレスを与えても、純粋な戦略手法レベルで、望むような結果が得られることはない」と語るのは、トロント大学ロットマンスクール・オブ・マネジメント准教授のジェイコブ・ハーシュだ。
ハーシュの言葉を借りれば、マネジャーの仕事の一つは心理的安全性のある職場をつくることである。あなたがチームメンバーのためにそのような場所を確保したうえであれば、チームに責任を果たすよう求めることも、はるかに容易になるだろう。
ダットンの研究によれば、「思いやりのある対応を受けた人々はしばしば、組織により多くの投資をする」。つまり、思いやりを示して人を気遣うことは、単に「よいこと」であるだけではなく、業績を上げるために不可欠なことなのだ。
●現実を無視してはいけない
今回の危機が始まってからすでに1年半が経過し、多くの人々がある程度正常に近い生活に戻ろうと努めている。そうした状況で、すぐにパンデミック前の生産性のレベルに戻れるだろうと、あなたは思い込んでいるかもしれない。
しかし、いまだに人々の大半がバーンアウト(燃え尽き)を感じているという現実を無視してはいけない。「誰もが消耗し切っている」と、ダットンは言う。そして、オフィスを再開したからといって、その事実が消え去るわけではない。
「ストレスのない世界になるわけではない」と、ハーシュは説明する。「生活の中では、常に何かが起きているからだ」
ハーシュはまた、職場のメンタルヘルスに「古いスタイル」で対処しても、何も解決しないと警告する。古いスタイルとはすなわち、問題にふたをして、まるで存在しないかのように振る舞うことである。
私たちは、人々がいま、メンタルヘルスの問題について職場で率直に話せることを望んでいると知っている。