コロナ禍や景気、政治動向など、文字通り、不確実性が高まっています。その中で、企業や組織はどのようにして目標を達成し、競争に勝っていくか。今こそ戦略再考の時と考え、『DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー』(DHBR)2021年11月号では「戦略の思考法」の特集を組みました。
特集1番目の論文は、戦略が複雑化しすぎて、最終的に成果が得られていない企業が多い現状を問題視します。効果的な戦略に絞ることを説き、その選択基準を価値に置きます。具体的には顧客、従業員、サプライヤーなどのステークホルダーに対して、相対的により高い価値を提供することで、選ばれる戦略です。
先月のDHBR10月号の特集論文「ステークホルダー中心のリーダーシップが資本主義を再構築する」の筆者であるヒューバート・ジョリー氏がベスト・バイCEO時代に、この戦略で競争に勝った事例が示されます。
同じ問題意識から、2番目の論文は、老舗からベンチャーまでさまざまな企業の戦略の失敗を分析します。そして、その課題を克服する方法として、「包括的な戦略ランドスケープ」という実践的なフレームワークを提言します。
「日本企業には戦略がない」。1990年代半ばからマイケル・ポーター(ハーバード大学教授)が発してきた言葉です。しかし企業価値を向上させえないという点ではいまも変わらない、特に全社戦略が不十分、という趣旨で論じ、その要因と克服法を提示するのが特集3番目の論文です。マッキンゼーが考える戦略の成功確率を高める10の要因をもとに、日本企業が進むべき道を解説します。
環境激変の時代、企業の競争力向上には、継続的な変革が欠かせないと主張するのが4番目の論文です。変革の実効性を高めるにはその測定が前提となるとして、グローバル調査で抽出した9つの特性と要素から「チェンジ・パワー」の測定法を考案。企業タイプを4分類し、戦略的に市場の競争力を高める具体的なアプローチを提案します。
その測定法によれば、変革力が著しく低い日本企業。5番目の論文はその現実を踏まえて、ミドルマネジメント層を巻き込み、組織文化を変えることで、変革力を高める3つの指針を示します。
戦略の実践や企業変革という点で成果を上げている日本企業の事例として、特集6番目にカインズを取り上げ、社長の高家正行氏をインタビューしました。経営戦略の実行における時間軸はキャッシュで決まると考える高家氏が、持続的な成長を実現するための戦略をいかに立案し、それをどのように遂行しているか、について伺いました。
特集以外では、経営改革に取り組む日本企業に示唆深い論文を3つ選んで掲載しました。1つ目は、「CEOの後継者をどのように見出すべきか」。経営トップの選び方の失敗で生じうる損失額を定量化し、よりよい後継者を見出す策を提示しています。2つ目は、「多様な投資家との対話を持続的成長につなげる法」。取締役による大株主との対話が、経営の可能性を拡げたり、アクティビストへの対峙策につながったりすると述べます。3つ目は、今日、示唆深い論考で最も注目されるロジャー L. マーティン氏のHBRデビュー論文です。
コラム「Life's Work」では、前『ワシントン・ポスト』編集主幹のマーティン・バロン氏をインタビューしています。私が尊敬する人です。トランプ大統領在任期間にわたり、「民主主義は暗闇の中で死ぬ」というスローガンを掲げ、彼の下で同紙は10のピュリッツァー賞を受賞しています。前職の『ボストン・グローブ』紙の編集局長時代に、カトリック教会の性的虐待というスキャンダルのスクープに手をつけ、ピュリッツァー賞を受賞。その功績を称えた映画『スポットライト 世紀のスクープ』は素晴らしい作品です。両紙の編集責任者として、いかに自分の成すべきことを成したかを語っています。