生産性の新しい定義

 インフォメーションワーカー(情報労働者)の生産性を定義づけることや測定することは困難だが、それを近い形で実現するために、研究者は2つの主要なデータを使用している。(1)生産的だと感じているかを尋ねる「自己申告データ」と、(2)メールの送信数やソースコードを書いた行数をカウントする「アクティビティデータ」だ。

 企業がリモートワークを導入した当初は、これらの標準的な生産性の指標が高い水準を維持していることに多くの人が驚いた。たとえば、パンデミックの発生から1年後にマイクロソフトが発表した「ワーク・トレンド・インデックス」では、社内のグローバルワーカー3万人以上の自己評価による生産性は、以前と同じか高くなった。マイクロソフトが毎年実施している従業員調査でも同様の結果が得られた。

 アクティビティデータに関しては、マイクロソフトのある部門における調査では、開発者が1時間あたりに確認した機能の数が1.5%増加した一方、フォーカスタイムは6%増加した。また、ギットハブのリポジトリでは、アクティビティが横ばい、または増加した。

 しかし、調査を詳しく見ると、これらの指標がすべてを示しているわけではないことがわかる。

 仕事が家の中に入り込んでくると、境界が曖昧になってくる。ある調査では、マイクロソフトの従業員の約半数(49%)が労働時間が長くなったと回答し、逆に短くなったと答えたのはわずか9%だった。また、パンデミック発生から1年後にマイクロソフトの外部の労働者を対象に行ったグローバル調査では、54%が過労を、39%が疲労を感じていると回答している。

 オフィスで一緒に働くことで得られる多くのメリットも失われた。筆者らの調査では、グループによるブレインストーミングなどのクリエイティブな作業はリモートワークのほうが困難だと、参加者は答えた。

 同僚とのつながりが失われていることを示す証拠も多数ある。『ネイチャー・ヒューマン・ビヘイビア』に発表した筆者らの最近の論文では、職場におけるネットワークのサイロ化が進み、イノベーションや知識の伝達、ひいては生産性が脅かされていることを明らかにした。

 ハイブリッドワークにどう移行するかを考えるうえでは、単純な生産性の指標では不十分であることが、相次ぐ研究で示されている。従業員のアクティビティレベルの高さを成功と結びつけたくなるかもしれないが、それでは長期的で持続的なイノベーションを推進する要因を見逃してしまう。

 生産性に関する考え方を広げ、ウェルビーイング、社会的つながり、コラボレーション、そしてそれらが生み出し、ビジネスの成功につなげるイノベーションに焦点を当てなければならない。