Yaroslav Danylchenko/Stocksy

コロナ禍以前の生産性の議論では、限られた時間でいかに多くの仕事をこなせるかが問われていた。しかし、コロナ禍の中で仕事と家庭の境界がますます曖昧になり、また同僚とのコラボレーションがより困難になったことで、従来の指標では生産性が高いとされる人であっても、実際には疲労感の増加や創造性の低下という目に見えない問題を抱えていることが判明した。本稿では、ハイブリッドワークにおける生産性を再定義したうえで、個人とチームのウェルビーイング、コラボレーション、イノベーションを促進させる方法を紹介する。


 仕事と家庭の境界は、けっして明確ではない。たとえば、私はオフィスにいる時も、4人の子どもの誰かから必要とされた場合にすぐに対応できるようにしている。

 マイクロソフトに入社したばかりの時は、子どもたちが小さく、仕事をこなすのに苦労した。子どもたちが昼寝をしたり遊んだりしている間は自由な時間が多くあったが、どんな時も子どもを優先して何もかも中断しなければならない可能性があったため、その時間を生産的に使うことができなかった。

「必要は発明の母」という言葉があるが、私は母として、また研究者として、仕事と家庭の境界を管理しようと努力したことで、人生に多くの発明をもたらすことができた。たとえば、生産性に関する研究の多くは気を散らすものをなくすことに焦点を当てる傾向があるが、私は一日のうちのごくわずかな隙間時間を生産的に使えば何ができるかと考え始めた。

 そこで、タスクをアルゴリズムでマイクロタスクに分類し、実際の仕事のやり方に合わせやすいように断片的に進めるアプローチを開発した。そうして生まれたのが「マイクロプロダクティビティ」という概念で、それによってマイクロソフトの生産性に対する考え方が広がった。

 それから時が進み、2020年3月4日、仕事と家庭の境界が取り払われ、マイクロソフトはシアトル地域の従業員を在宅勤務にした。当時は認識していなかったが、私たちは、何世代にもわたり続いてきた働き方が、最大級の創造的破壊を迎える開始地点にいた。そしてそれは、生産性についての理解を再び広げる機会を生んだ。

 マイクロソフト、リンクトイン、ギットハブの各社から何百人もの研究者が集まり、マイクロソフト史上最大の研究イニシアチブ「ニュー・フューチャー・オブ・ワーク」を形成した。そこでは在宅勤務の方法を考えたり、自身の育児に悩んだりしながら、リモートワークに関する50以上の研究プロジェクトを実施してきた。

 1年半にわたり調査してきたが、数カ月後の仕事のあり方を予測することはほぼ不可能で、数年後は言うまでもない。たとえば、人々はオフィスで働くことを懐かしく思う一方で、リモートワークのフレキシビリティを失うことを恐れている。

 CEOのサティア・ナデラはこれを「ハイブリッドパラドックス」と呼んでいる。しかし、この調査では、マネジャーがハイブリッドパラドックスを考慮した、新しい生産性の定義を定める必要があることが明らかになった。どれだけの仕事をこなすかだけでなく、仕事と家庭の境界がなくなった時にどのように働くのかを考慮した定義だ。