●イノベーション

 シンプルな意味では、イノベーションを起こすには個人が集中して考える時間とのバランスを取りながら、人々が集まってアイデアを出し合い、試し、解決策を考え出すことが必要だ。

 ハイブリッドワークを適切に行えば、まさにそうした状況をつくり出すことができる。しかし、間違ったやり方をすると、そのように重要な社会的つながりが損なわれ、イノベーションに影響を与える可能性がある。そのリスクを回避するためには、イノベーションを促進する条件を最適化して、生産性についてより広く考えることが有効だ。

 まず、どの仕事をリモートで行うべきか、対面で行うべきかを考える。個人の生産性やルーチンワークのためにはリモートワークがよいが、他者に広く、大きく依存する仕事や、ブレインストーミングや問題解決などのクリエイティブな仕事は、対面でのコラボレーションが適している。

 たとえば、大きなプロジェクトの開始時には対面で集まるものだが、問題が明確になり、ワークストリームが標準化され、責任が定まれば、多くのプロジェクトは独立してゆるくつながる疎結合モードに移行し、リモートワークがより効果的になる。

 また、新しい人とは直接会うことだ。チームの設立時にはメンバーが集まり、新入社員にはオフィスで過ごすよう奨励すると、イノベーションを促進する土台となる社会的なつながりが生まれ、その後のリモートワークにも役立つ。

 最後に、チームが職場の身近な人以外と関係を築くことも促そう。こうした「弱いつながり」は、新しいアイデアや潜在的なコラボレーター、インパクトを与える新しい機会など接点を持つベストな手段であり、イノベーションには欠かせない。

 オフィスでは、チームメンバーがこれまで一緒に仕事をしたことのない人と話をしたり、その人から学んだりすることのできる機会を設ける。リモートワークをしていても、会議の始めに世間話するよう促したり、他のチームの人に知識を共有してもらったり、多様なフィードバックを求めたりすることで、この弱いつながりを積極的に構築することができる。

 将来のことは多くが不確かだが、筆者らの仕事は働き方の未来を予測することではなく、それを形づくる手助けをすることだ。今後数カ月にマイクロソフトの多くの顧客やマイクロソフト自体がハイブリッドワークに移行する中で、生産性に関する広い定義を用いて働き方の指針を示すだけでなく、10億人以上の人々が仕事のために使用しているツールのイノベーションを推進していく。

 最終的には、短期的な指標が上向くだけでなく、以前よりも人、チーム、組織の生産性が高まり、ウェルビーイング、コラボレーション、イノベーションをサポートする目標達成につなげることができれば、私たちは成功したと言えるだろう。

注:本稿の執筆には、ソニア・ジャフィとブレント・ヘクトが協力した。


"Let's Redefine "Productivity" for the Hybrid Era," HBR.org, September 09, 2021.