●「常に仕事中」という文化を阻む

 テクノロジーによってハイブリッドワークやリモートワークが可能になり、多忙なプロフェッショナルが屋外で時間を過ごすことは、さまざまな意味で容易になった。

 たとえば、私の場合、スマートフォンのおかげですぐに対応すべきメールをチェックして返答することができる。また、体を少し動かして新鮮な空気を吸い、日光を浴びることが、いま取り組んでいる問題について考えたり、自分のエネルギーレベルを高めたりするのに役立つと思う時は、勤務時間中に散歩をすることが多い。

 換言すれば、テクノロジーのおかげでどこにいても仕事ができるようになり、たとえ短時間であっても、屋内のオフィスにいなければならないという拘束から逃れる機会を得られるようになったのだ。

 ただし、ストレスや疲労の原因になる仕事関係の活動から解放されて、自然の持つ癒しの力を最大限に活用しようとする時には、スマートフォンは障壁にもなりうる。事実、パンデミック中のリモートワークへの移行が、実際には勤務時間を増加させたというエビデンスもある。

 パンデミックの前から、テクノロジーのために仕事とプライベートの時間を真の意味で区別することが、ますます困難になっていた。たとえば、米国人の66%が休暇中であっても仕事をしたと答えている

 そして、マネジャーがこの問題を助長している。ある調査によれば、80%以上のマネジャーが勤務時間終了後でも部下に連絡を取ると答え、最もよく使う連絡手段としてメールやテキストメッセージを挙げている。

「常にオン」の状態である現代の仕事文化ゆえに、勤務時間外にメールをチェックしたり返信したりすることが求められ、それによってウェルビーイングが低下するだけでなく、離職希望が増すことを明らかにした研究もある。

 つまり、最新テクノロジーは人々が自然の力を利用しやすくすると同時に、利用しづらくもしている。どこにいても働けるようにしてくれる電子機器が、仕事からいっそう離れにくくしているのだ。

 テクノロジーが仕事にどのような影響を及ぼすかを考えるにあたり、企業のリーダーやマネジャーは、従業員と仕事をつなぐデバイスに関する具体的な方針や職場の規範の是非を慎重に検討しなければならない。

 画一的なルールは、益となるよりも害となりうることに留意すべきである。

 たとえば、通常の勤務時間後のメール使用を禁止する方針を採用した会社がある。そのような方針は、デジタルの障壁をつくることで、仕事関係のコミュニケーションを特定の時間内に留めることができるため、優れていると感じるかもしれない。

 だが一方で、このルールが、個別の状況に応じて各自が最適な時間帯に働くスケジュールを組み立てる柔軟な勤務形態をつくり、維持しようとする努力を台無しにしかねない。

 より適切なアプローチは、組織文化の構築に注力することだ。それぞれの従業員が自分のスケジュールを自由に管理できるのみならず、仕事の生産性やチームへの貢献に対する期待が明確かつ公平に設定される文化である。実際にいつ仕事をしているか、チームのミーティングや活動をどう行っているかは関係ない。