サンドラは、ある大手工業会社のCOOを務めていた。自社に根を張る有害な文化的規範を改め、生産性を高めるにはどうすればよいかというアドバイスを求めて、筆者にコンサルティングを依頼してきた。
彼女は、筆者がこれまで仕事をしてきた中でも指折りの、要求が厳しいリーダーだった。ことあるごとに自分の意見を打ち出し、相手の主張に異論をぶつけ、より大きな成果を求めた。
しかし、サンドラは新しい思考を取り入れ、解決しようとしている問題の複雑性から逃げることなく、それを直視した。
社外の専門家として招かれていたのは筆者らだったが、サンドラ自身もいくつかの重要なインサイトとアイデアを提供した。そして、筆者らが提案内容に対するコンセンサスを得て、その提案を確実に実行できるように全社規模の対話の場も用意した。
その結果、生産性向上に関する短期目標を達成できただけでなく、上層部は目的意識とコミットメントを新たにすることができた。それを通じて、以前よりもアジャイルな文化が育まれ、さらに大きな恩恵を得ることができた。
一方、フィリップは、大手製薬会社のある部門でゼネラルマネジャーを務めていた。医学部を卒業し、ビジネスの問題を病気のように扱う傾向があった。まず、問題を診断して、適切な治療法を見出し、そのうえでそれを実行するための支援を求めるのだ。
フィリップが率いる部門では、イノベーションが減速していた。その原因は率直なコミュニケーションの不足にあると、フィリップは考えていた。
そこで、問題を解決するために、フィードバックを提供するスキルを改善するためのワークショップを開催することにした。そうした取り組みはしばらく行われておらず、この試み自体は理にかなうものだった。
しかし、問題の複雑さを考えると、それはあまりに単純化された解決策だった。部下は、自分たちがどのように行動すべきか理解はしていた。問題は、それを実践する自信を欠いていたことにあったのだ。
フィリップは、そうした状況が生まれていることに関して、自分のリーダーシップのあり方に問題があるという可能性と向き合うことを嫌い、みずからの分析に自信を持ち続けた。根本的な問題に向き合おうとすれば、もっと複雑で時間のかかる介入策を講じなくてはならないと恐れていたのだ。
ワークショップは、所期の目的を達成するうえでは有効だったが、フィリップの部門が直面していた問題を解決することはできなかった。「目標に掲げたことは達成できているのですが、的外れの結果に終わっています」と、不満を募らせたチームメンバーは述べている。