●自分の限定的な考えを振り払う
人を率いる立場から自分一人で仕事をする立場になりたい理由を、自信を持って相手に説明するには、自分自身がそれをキャリアの後退ではなく、前進だと考えることが欠かせない。
管理職から離れるという方向転換は、失敗ではないことを忘れないでほしい。むしろ、現在の役割を楽しんでいないにもかかわらず、よりふさわしい人物に引き継ぐことを拒絶するほうが、自分自身にもチームにも大きな損害を与える。
筆者がコーチングを行っているあるクライアントは、法人向けソフトウェア会社で周囲を上回る実績を積み重ね、セールスディレクターに昇進した。当時、彼は昇進を断ることなど考えもしなかった。組織の中でリーダーとして認められるチャンスだった。
しかし1年ほど経って、セールスマネジャーの仕事が自分に合わないことに気づいた。報酬体系を設計したり、担当者のモチベーションを高めるために声をかけたり、セールストークのロールプレイで手本を示してチームを指導したりと、さまざまな役割をこなしていたが、どれも彼の心には響かなかった。
現場に出て、顧客と毎日顔を合わせる日々に戻りたかった。そして、日々の活動が成果に直結する直属の部下たちを、うらやましく思うようになっていた。
状況を改善するために、筆者はまず、彼が魅力を感じる顧客対応の仕事を行う時間を増やすことを含めて、いくつかのジョブ・クラフティングを提案した。
ただし、組織として正式な役割の変更がなければ、マイクロマネジメントをしているかのように見えるかもしれない。彼のそうした振る舞いが、チームのエンパワーメントや成長の妨げになりかねなかった。
そこで彼は、一社員に戻り、創造性を発揮できるように制限を取り払って、より広範かつ優れた方法で問題解決できる方法を考えた。
例えるなら、舞台や映画で一人芝居を演じる俳優のようだ。最初は脚本を読み込むところから始まるが、セリフが頭に入った後は、さまざまな新しい魅力的な方向へと物語を膨らませながらも、自然に演じられるようになる。
一社員に戻ることを組織への「リ・エントリー」ととらえ、新しい人生経験やスキルを通して自分が提供するものを向上することができると考えれば、周囲に受け入れられやすく、説明しやすくなるだろう。