●自分自身が「降格」だと考えない

 管理職を降りる際は、自分が一社員として過去に経験したものと似たような役割を選ぶ人が多いだろう。

 しかし、ほとんどの組織には、ミドルレベルやシニアレベルでも部下を管理していない人がいる。したがって直接チームを率いるのではなくても、自分が会社にもたらす価値を反映した正式な役割や肩書きを提案してみる価値はあるだろう。

 あるフォーチュン500企業のITディレクターは、複数のマネジャーとそれぞれの直属の部下を束ねて、大規模なグループを率いていた。会社がクラウドへの移行を開始するにあたり、個々の事業部門や機能の移行を指揮しながら、外部のコンサルタント会社との調整を行う専門家が必要になった。

 そこで彼は、自身の技術に関する経験と、かつて主要なサポート機能の開発を率いて培った社内での影響力をもとに、デジタルトランスフォーメーションの責任者にみずから手を上げた。そして、その役割を得ただけでなく、直属の部下がいなくなったにもかかわらず、同じ報酬レベルを維持することができた。

 エグゼクティブの地位を維持したまま、一個人としてプレーヤーに戻るもう一つの方法は、透明性の高い戦略ミッションを掲げた組織全体に関わるイニシアチブを担当することだ。

 たとえば、筆者がコーチングを行った2人のバイスプレジデントは、それぞれピープルマネジャーの役職を降りて、そのような役割を担った。

 一人は大手メディアグループでESG(環境、社会、ガバナンス)にまつわるプログラムを率いることになり、もう一人はフォーチュン100企業でDEI(ダイバーシティ、エクイティ、インクルージョン)を統括することになった。

 どちらも、直属の部下はいなくなった。しかし、彼らはパートナーと協働しながらアジェンダを策定し、影響力を駆使してそれを実行する能力を評価されて、それぞれの役割で相応の報酬を得た。

 彼らの例は、企業が新たな組織構造やフラットな組織階層について検討する中で、部下を持たずとも、マネジャーとして働いていた時と同じかそれ以上のレベルで働くことができることを示唆している。